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コーギーとお昼寝

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八幡さんも楽したい

それはそれは深い溜息を一つ吐いて新聞を閉じる。
「朝からえらい深い溜息吐きはりますね、八幡さん」
「堺……あなたいっぺん殴りたいと思ったことはありますか?」
「ポスコさんの話ですか?」
「あんな恩知らずにさん付けしないでくださいヘドが出る」
しまった、韓国最大の製鉄企業に対する八幡の恨みの深さを忘れていた。
あの辺の因縁はあまり把握していないので深入りしないようにしているが、あの一年中寝惚けているような広畑が丑の刻参りをしてでも息の根を止めようとした相手なので恨みの買われ方がえぐい。
「じゃあ誰殴りたいんです?」
「中国ですよ、本当に鉄鋼減産する気あるんですかね」
その言葉になるほどと溜息を吐く。
不況に見舞われる鉄鋼業界ではその原因となっている中国による鉄鋼減産を望み続けてきた。
あの国ではあまたの製鉄所があり一度は不景気で高炉を止めたものの、今年に入ってから中国国内の景気が良くなってきたため再び生産を再開するゾンビ製鉄所が続出。
その鉄は中国国内にとどまらず世界の市場に放出されて世界の鉄の値段を下げ続けている。
「止めろ止めろとは言うても急に止まるものやないですからねえ」
「こっちは殴りたくて仕方ないですけどね」
「……高炉持ちの年長者やなくて良かった」
「今何か言いました?」
八幡に黙ってお茶を差し出せばずずっと勢いよく啜っていった。




堺の家に泊まりに来た八幡の話。
八幡とポスコの因縁はいずれ書きたい(書く機会があるのかは謎)

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拝啓、金子商店様。

拝啓、金子商店様。
梅雨入り前の暑さ厳しいこの季節をいかがお過ごしでしょうか。
私と加古川は今日も元気に過ごしており、加古川も少し背が伸びたような気がします。そのうち追い抜かされそうで怖いです。
最近はもっぱらこの身長の事で悩んでいます。
ここのところ来年11月の高炉停止で身長が縮むのではないかと戦々恐々としているせいで、洋服を買い足すときどうしても来年秋以降も着れるのかと思っては服を諦める日が続きます。
良い服を買ってもすぐ着れなくなったらもったいないですからね。
加古川は私の洋服のセンスは派手だから遠慮すると言って譲る事が出来ず、さてどうしようかと洋服箪笥の前で頭を抱える日々です。
もしあなたがいてくれたら私の洋服を代わりに着てくれたでしょうか?
そんなことをぼんやりと考える日々です。
それでは、またいずれ手紙を出します。
あなたの妹たる神戸製鋼より愛を込めて。

書き終えた手紙を封筒にしまい込み、軽くため息を吐く。
どうでもいい日々の事をこうして行き先の無い手紙を書いてはお菓子の缶に投げ込むという不毛なことをもう何度も繰り返している。
「神戸姉様」
「加古川、どうかしましたか?」
「おやつ時ですからお茶にしませんか?スコーンを焼いたんです」
「そうね」
私の可愛い年の離れた妹である加古川は山野草のごとき素朴な少女で、口の悪い小倉なんかは『何度見ても血のつながった姉妹とは思えんたい』と言うくらいだ。
木皿に盛られた出来立てのスコーンとイチゴジャムにクロテッドクリーム。そしてストレートティー。
「また少し背が伸びましたこと?」
「そうかもしれません」
「大きなこと自体は悪い事ではないわ、今のあなたは真岡や高砂に並ぶうちの主力だもの」
そう言うと気恥ずかしそうに軽く視線を逸らす。
(兄弟姉妹と言うのは本当にいいものだわ)
今度は加古川の話を手紙に書こうか、なんて思うのだった。





金子商店と神戸の話はそのうち書きます。あと加古川ちゃんちゃんと書くの初めてですね。

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ナイトウォーカー4

周囲を見渡せばざわざわとざわめく人。
第1高炉の周辺には悲鳴にも似た声が辺りを飛び交い、私はその場に立ち尽くしている。
幼い私はただそこに立ち尽くしてその事実に放心している。
映画の世界に潜り込んだような気持ちでその光景を眺めていた時だった。
「八幡、」
そう呼びかけた釜石は少し悩んでから「……茶でも飲みに行こう」と告げてきた。
「あんまり失敗を引きずるのは良ぉないからな」
「しっぱい」
釜石の言葉をほんの幼い頃の私がころりと口で転がす。
(これは私が出銑に失敗した日の光景だったのか)
1901年(明治34年)11月、作業開始式の光景だった。

****

そうして釜石が部屋に幼い私を連れ戻すと、煎茶と小倉で買ったというカステラを出してきた。
当時はまだ物珍しいお菓子だったカステラであっても幼い私の心を晴らす事は出来ないようだった。
「八幡、」
「はい」
すっとカステラの一切れが幼い私の口元に寄せられる。
釜石は目でこれを食えと告げていて、幼い私はそれをぱくりとほおばった。
「……おいしい」
「じゃろう?悲しくなったら美味しいものを食うんじゃ。そうすると自然に涙は引っ込む」
そう言えば釜石はそうだったな、と思い出す。
悲しい時ほど美味いものを食って悲しさを忘れようとする人なのだ。

「それに、わしと素晴らしい外人さんらに育てられたお前が劣等生な訳がない」

釜石は私を励ますとき、よくそう言った。
それは昔からそうだった。ひどく自信を無くしそうになるといつもそうして私を慰めに行く。
まったく嘘偽りのない声色の強さで私はようやく私を肯定するのだ。
「私は、あなたの一番弟子ですもんね」
「おう」
「失敗は成功のもと、ですしね」
「ほうじゃ、ちょっとやそっとでへこたれるな」
幼い私は釜石の力強い肯定を受けると、元気が湧いてきたのか顔色から暗さが取り除かれる。
(この頃から私は釜石に弱かったんですねえ)
そう思うとなんだか苦笑いすら出てくる。
この幼い私の世界の根っこには釜石がいて、彼が肯定さえしてくれればそれでよかったのだ。
きっとこれ以上幸福な時代は無いだろう。
ぺらりと風に揺れたカレンダーには釜石の帰郷の日が近い事が記されていることには気づかぬふりをした。




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ナイトウォーカー3

起き上がってみればそこはいつもの独身寮の角部屋だった。
背伸びをして壁の時計を見れば午前6時半過ぎを指している。
ゆっくりと起き上がって着替えて部屋を出れば初夏の晴天が広がっていて良い気分だ。
事務所にひょっこりと顔を出せば馴染みの事務員が神棚に枇杷を並べていて、私の存在に気付いた彼女が「枇杷要ります?」と尋ねてくる。
「いいですね、頂きます」
「どうぞ」
枇杷を受け取って給湯室に向かい、軽くすすいでから皮をむいて齧るとほんのりと甘酸っぱい初夏の味がする。
つい無心になって食べていたら貰ったものを食べ切っていて、手が汁で汚れていた。
(……少し品のない事をしてしまいましたね)
別に怒る人がいる訳でもないのについ辺りを見渡して確認してしまう。
例えるなら、道草して花の蜜を吸うようなちょっとした悪事をするあの気持ちだ。
手ぬぐいで手を軽くぬぐってから給湯室を出ると、先ほどの彼女が「気に入っていただけて良かったです」と小さく耳打ちをした。

****

今では出入り禁止になった本館の鍵を開けて、のんびりと中を巡っていく。
現在は旧本館と呼ばれて近くの眺望スペースから眺める事しかできない場所ではあるが、私は例外的にここの出入りが自由に許されているので時々こうして中を覗きに行く。
建物の煉瓦たちが私を歓迎しているのが何となくわかる。言葉ではない無意識に発される感情を受け取ったとでも言おうか。
釜石も今は世界遺産になった大橋高炉に行くと歓迎されている心地になると言うので私特有の事象ではないのは確かだ。
「ここだ」
私と釜石が共同で使っていた部屋はその後建物の機能移転に伴って用途が何度となく変わって今はがらんどうになっていて、私が過ごしていた頃の名残はほとんどない。
部屋に足を踏み入れて、ぐるりと部屋を回る。
ふいに私のベッドが置かれていた場所の壁にへこみを見つけて、思わずその手で触れていた。




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アークロイヤルとアメリカンスピリット

「煙草切らしたんで一本分けてもらえません?」
八幡が俺にそう聞くので一本渡すとマッチで火をつけて微かに甘い煙を纏う。
「……相変わらず君津は甘いの好きですよね」
「別にいいだろ」
アークロイヤルのバニラフレーバーを纏った八幡はまるで南国の植物に似てひどく蠱惑的に輝いていた。




ついったでフォロワさんに「八幡君津下さい」と言われて書いたもの。
今回君津が吸ってるのはアークロイヤルです、アメリカンスピリットは八幡が愛飲してる銘柄。

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