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コーギーとお昼寝

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花園に行く

リーグワンが正月の中断期間に入っても、忙しいやつは忙しい。
特に今目の前にいる青と臙脂に身を包んだこの男はその最たるものであろう。
「お、俺の庭と書いて花園にようこそ」
「ライナーズも元気そうやな、さっきレッドハリケーンズのテントで会うたけどあいつも元気そうやったし」
段ボールの積まれた台車を押しているライナーズの上着には高校ラグビーの刺繡。
毎年この時期は高校ラグビーの大会運営を手伝うライナーズの邪魔にならぬよう、一緒に歩きながらしゃべってみる。
「今年も神戸製鋼さんと来たんやろ?あの人は?」
「先に席行ったわ、今年は今日ぐらいしか来れへんから色々見たいんやて」
「忙しいもんなあ……ま、うちも似たようなもんやけど」
物販コーナーの隅に台車を止めると商品をどんどん運び出してくる。
高校ラグビーファンや関係者の視線がこっちに向くと、顔見知りのファンもちらほら見受けられたので軽く頭を下げておく。
(やっぱみんな来とるんやなあ)
バックヤードのほうに入っていくライナーズを見送り、姐さんに頼まれた今年の分の有料パンフレットに手を伸ばす。
今年の高校ラグビーのテーマソングに耳を傾けながら他に買うもんあるかな~?などと眺めてみる。
時折幼い子供も見受けられ、あの子たちも10年後には花園のヒーローになるんかなあなどと思いをはせてみる。
「お、パンフ一冊だけなん?」
「そんな何冊もあっても保存しきれへんやろ」
奥から在庫を抱えてやってきたライナーズが声をかけてくる。
「ほかに買うもんないなら俺が清算したるからこっち来ぃや」
「なら頼むわ」
誘導されるままにレジへ連れていかれると「でもパンフ毎年手持ちで置いとくとおもろいよな」言い出した。
「そうよな、うちの選手とかでも高校の時と今で見た目全然違うやん!とかあるし」
「あとはこの子うちのチーム来てくれへんかなあって夢みたりな。袋有料やけどいる?」
「要らん」「ほなテープだけ張っとくな」
バーコードにテープを張られたパンフレットと現金を交換すると「ほな、俺の庭を楽しんでいきや」と返していく。
(……冷静に考えるとこの会場って今ライナーズの私有やないよな?)
そんなことを考えつつ姐さんのいる席のほうを目指し、入口へ一歩足を踏み入れると試合前の緊張感が辺り一帯を包んでいた。


(ああ、青春が冬空の下で燃えよるわ)

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スティーラーズとライナーズ。
高校ラグビーの季節ですね。

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同じ湯の中で

温泉行きませんか、とDロックスが突然言い出した。
「ほら、この辺って温泉ありますしせっかくなら入って帰りましょうよ」
「……入浴料奢りならいいぞ?」
思わず意地の悪い言葉が口から出てきたが、そんなことを気にもとめず「いいですよ」と返してくる。
タクシーで近くの日帰り温泉へと直行(無論これもDロックスが出した)すると、2人分の入浴券に石けんまで買ってくる。
若干いいのか?と聞きたくなりつつも、しかし本人が気にしてないので何も返せない。
日帰り温泉の浴室の扉を開ければ、温泉特有の硫黄の香りがふわりと漂ってくる。
同じように冷えた身体を温めにきたらしい見覚えある顔もちらほらおり、視線がかち合えば軽く頭を下げた。
まずは冷えた身体を温めようと掛け湯をすれば、その温かさにびくりとなる。
(思ったより体冷えてたんだな)
かれこれ5年ぶりのいわきゲームで、地元出身のキャプテンの帰還も相まって少し緊張してたのかもしれない。
「は〜……」
「あったかいな」
肩まで湯に浸かれば少しばかり緊張も解ける感じがする。
「こういうのも遠方での試合の醍醐味ですよねえ」
「お前さんも定期的に仙台ゲームやればいいのに」
「仙台好きですけどスタジアムの都合が難しいんですよね、雪の心配もありますし」
「雪はどうにもならんよなあ」
そんな世間話に飽きると、ぼうっと天井を見上げながらただ暖かい湯に浸かるだけの時間が始まる。
プレーの一つ一つを頭の中で振り返り、ああすれば良かったとかここは伸ばせるポイントだとか思考が整理されていく感じがする。
「シーウェイブスさん、」
「うん?」
「ちょっとは気が晴れました?」
そんな問いかけで初めて自分が気を遣われていたことに気づき、申し訳なさとほんの少しの文句が口から漏れそうになってしまう。
「お前さんが勝ち点くれればもっと晴れたんだがな」
そんなふうに冗談めかして答えれば「なんかすいませんね」と笑うのだった。


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シーウェイブスとDロックスのいわきゲーム、見てきました。

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時代はいつも波のように

「時代は変わったねえ」
ぽつりと鹿島がつぶやくので一瞬何の話だ?と聞きそうになる。
その目線の先には俺が今朝読んでいた経済新聞が置いてあった。
「かつて世界一だった会社が凋落して吸収されちゃうなんてさ」
「USスチールの件な」
八幡から薄々聞かされてはいたが、実際そうなるとうちは日米合弁企業になるのかとどこか不思議な気持ちになる。
英語の勉強しねえとなあなどという問題ではない。
俺が子どもの頃は世界一でうちの会社はアレを超えるんだよと東京に聞かされていた存在が、いつの間にかあんなに小さくなってうちに吸収されるのだ。
「なんというか、物事の変化に時々追いつけなくなりそう」
「みんなそう思ってると思うけどな」
海の向こうの彼らが今この事をどう思っているかを聞くことはできない。
けれど打ち寄せる時代の変化を受け入れて行く先を追いかけるしかやれることが無いことは、きっと向こうも分かっていることだろう。
こういう出来事において俺たちには決定権がないので、実に無力な傍観者でしかいられない。
「ねぇ君津、俺たち10年後100年後はどうなってると思う?」
「知らん。せいぜい死んでない事を祈ることしか出来ねえだろ」



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君津と鹿島。USスチールの併合に腰抜かしてるわたしです。

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対話はいつもめんどくさい

*製鉄大合同前後の話

「釜石にとっての私ってどういう立ち位置なんですか?」
八幡が突然そんな面倒くさいことを言い出した。
「どういう立ち位置って……一番弟子?」
「一番ならもう少し私を大事にしてくれてもいいと思うんですよね」
「弟子って単語抜かすな」
八幡と言う存在が自分にとっての唯一無二だとか、一番星だとか、そういうきらきらしい事を言って欲しいのだろうか。
八幡の言われたい気持ちは察するに余りあるが、自分にとってはそこまでわかりやすい言葉で評していいような存在にはどうしても思えないのだ。
「ただ最初に教えた弟子なんですか?」
「だってそうだろう。わしが一番最初に面倒を見たのはお前なのには変わりないし」
「確かにそうですけどね?その付き合いの長さで私が言われたい事ぐらい察してくださいよ」
八幡が望んでいる言葉が分かっていても、たかが機嫌取りで言葉にするほど自分の口は軽くない。
そうだなあ、とちょっと考えてみる。
「……わしが死ぬときはお前が死に水を取れ。室蘭やうちの人間じゃなくて、お前がな」
自分がこの先どういう風に死ぬとしても、たぶんこいつが一番泣いてくれる。
こいつが自分を心から愛してくれていることはよく知っているから、お前になら全部託していい。
「なんであなたが先に死ぬこと前提なんですか」
「普通こういうのは年長者が先だろうが」
「まあそうですけどね?」
もういいです、と八幡が深いため息を吐く。
わりとめんどくさい弟子のめんどくさい対話を終えれば、部屋はただ静かであった。


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釜石と八幡のめんどくさいエピソード。
このクソめんどくさい八幡と普通に付き合えるだけおじじはえらいと思う。

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歓声と幕開け

その日、神戸の朝はすっきりと良く晴れた晴天だった。
「おはよう」
「スティーラーズ遅かったわね」
「いや姐さんらが早すぎなんですって」
仕事でもないのに土曜の6時頃から起きる人はそう多くないはずなのだが、それより先に起きてる2人が不思議でならない。
姐さんが淹れてくれた目覚めの一杯が差し出される。
「だって今日開幕戦でしょ?」
「まあそうですけど、俺みたいに試合の準備ある訳やないんですから」
「楽しみがあると朝早く目が覚めるものじゃない」
加古川さんがトーストとサラダ・焼きたてソーセージの乗ったワンプレートを渡しながら「姉さんの期待ですよ」と付け足してくれる。
その加古川さんもよく見ると赤いネイルをしており、ちょっとしたわくわく感を感じる。
(これ、昨日ネイルサロンでも行って塗ってもらったパターンやな……)
「今日は三重ホンダヒートよね?」
「そうですよ、モスタート気になります?」
「興味はあるわね。まあそれ以上にサベアやレタリックも楽しみだけど」
姐さんが上げたのは新しくうちに来てくれた選手たちの名前だ。
俺もその二人には期待してるので気持ちは同じだ。
「スンシンくんって今日出場でしたっけ?」
「あー、今日はベンチですねえ。まあ体調が悪くなさそうなんで期待はできますよ」
加古川さんはお気に入りの子の事をいくつか聞いてくるので、
ちょこちょこ答えながら朝食に箸を伸ばす。
朝食を胃に収めるともうそろそろ出ないといけない時間になる。
さっさと残りの身支度を整えていつものリュックを背負ったら気持ちは試合に向かっていく。
「帰りは7時ぐらい?」
「ですねえ、姐さんもそのくらいですかね」
「早めに家戻って他の試合の録画見ながら加古川と飲んでるつもりだけど?」
「え、録画残しといてくださいよ」
「当然よ。試合、楽しんできてね」
姐さんがそんな風に言うてくれる。
俺がラグビーを全力で楽しめば姐さんも楽しんでくれることを、俺は知っている。
だから今日も手抜かりなく、全力でラグビーボールと戯れる。
「ほな行ってきます」


ラグビーリーグワン、本日開幕!

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スティーラーズと神戸加古川姉妹。
今日の開幕戦は行けそうにないので行く人は楽しんできてください

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