*製鉄大合同前後の話
「釜石にとっての私ってどういう立ち位置なんですか?」
八幡が突然そんな面倒くさいことを言い出した。
「どういう立ち位置って……一番弟子?」
「一番ならもう少し私を大事にしてくれてもいいと思うんですよね」
「弟子って単語抜かすな」
八幡と言う存在が自分にとっての唯一無二だとか、一番星だとか、そういうきらきらしい事を言って欲しいのだろうか。
八幡の言われたい気持ちは察するに余りあるが、自分にとってはそこまでわかりやすい言葉で評していいような存在にはどうしても思えないのだ。
「ただ最初に教えた弟子なんですか?」
「だってそうだろう。わしが一番最初に面倒を見たのはお前なのには変わりないし」
「確かにそうですけどね?その付き合いの長さで私が言われたい事ぐらい察してくださいよ」
八幡が望んでいる言葉が分かっていても、たかが機嫌取りで言葉にするほど自分の口は軽くない。
そうだなあ、とちょっと考えてみる。
「……わしが死ぬときはお前が死に水を取れ。室蘭やうちの人間じゃなくて、お前がな」
自分がこの先どういう風に死ぬとしても、たぶんこいつが一番泣いてくれる。
こいつが自分を心から愛してくれていることはよく知っているから、お前になら全部託していい。
「なんであなたが先に死ぬこと前提なんですか」
「普通こういうのは年長者が先だろうが」
「まあそうですけどね?」
もういいです、と八幡が深いため息を吐く。
わりとめんどくさい弟子のめんどくさい対話を終えれば、部屋はただ静かであった。
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釜石と八幡のめんどくさいエピソード。
このクソめんどくさい八幡と普通に付き合えるだけおじじはえらいと思う。