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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

かはたれ時

まだ夜明けも遠い時刻にのどの乾きで目が覚めた。
重い体を起こして水道水を一気に飲み干してもまだ足りなくてもう一杯を飲み干す。
壁時計は午前3時すぎを指していて、あれを見に行けと言うことなのかもしれないと思うとため息が漏れた。
夜明け前の寒さをしのぐために薄いジャケットを羽織って外に出ると悲しいくらいに良く晴れている。今日は雨も降らないらしい。
足を延ばしたのは第一高炉の足元。
『俺が長らく願ったこの火を大事にしてね』
60年前のあの日、次屋兄さんが俺にそう語ってくれたのを思い出す。

この高炉の火は2021年9月29日午前3時20分を以て、俺の手から消えていく。

その火の消える瞬間を取ろうとするメディアのカメラが薄暗い海の向こうに光るのが見えた。
彼らもまたこの火が消える悲しみを悼んでくれるのならばいいのだけれど、と皮肉めいた気持ちが沸いた。
20分を過ぎると高炉の火が徐々に小さくなっていく。
高炉の火はいまや希望の灯ではない。
二酸化炭素を大量に排出し、長らく鉄の供給はだぶつき、国内製造業は未だ混迷の中をさまよう。
そしてこの希望の灯の下にいた人々を僕は支えることも救うことが出来ない。
高炉の先から燃えていた火がポッと最後の煙を吐いて消えてく。
僕はその消えてしまった火の名残を目を凝らして追いかける。
もう煙の名残りも負えなくなったころにはメディアの船や飛行機も消えていき、空がかすかに明るくなり始めた。
僕の祈りなど知らぬ太陽によって無慈悲に夜は明けていく。


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呉さんと最後の高炉の火

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苦い船出と甘い菓子

「たこまん連れてってくりん」
「……ハア」
試合後のどこか暗い気持ちを隠しながらシャトルズさんの所へ挨拶に行くと、そんな無茶振りが来た。
「看板見てたら気になってのん、アザレアに聞いたら美味しいよって言ってたで食べまいか」
「あざれあもおかし食べたい!」
今回も裏方さんのお手伝いで連れてきていたアザレアもすっかりその気になっていて、スタッフに目配せするとどうぞどうぞと頷いた。
「アザレア、お菓子は一日?」「いっこまでー!」
「ちゃんと守れるならアザレアも連れて行きますよ」
「うん!」

***

車で10分弱のところにあるたこまんはこの辺りではお馴染みのお菓子屋さんだ。
地域のラグビー協会スポンサーとして今回お世話になったし、シャトルズさんもヴェルブリッツさんへのお土産にはちょうどいいのだろう。
「タコのお菓子はありゃーせんな」
「そういうもんですよ、お土産なら大砂丘とか良いんじゃないですか?」
「色々あるでのん、アザレアはどうするだん?」
「パフェにするー!」
一瞬首をかしげると、そう言えばここはカフェも併設されていたことを思い出す。
併設のカフェで出されているメニューには確かにクラウンメロンのパフェが紹介されている。
「このクラウンメロンのパフェですか?食べ切れます?」
「うん!」
ちょっと量が心配だが最悪残りは僕が食べればいいかと割り切る事にする。高いのはご愛敬だ。
僕のほうは大砂丘とコーヒー、シャトルズさんはお土産のお菓子とは別に二種類のマリトッツォを注文してくる。
「しゃとるずのおにーさんも甘いのすき?」
「こんきい時の甘いもんは好きだあ」
わいわいと話を弾ませる二人の横で僕だけがどうにも苦い気持ちが残る。
初めての船出の試合で三部リーグであるシャトルズさんにボコボコに負けるという失態。
(これで有観客だったら本当に恥ずかしさで死にたくなるな)
苦い気持ちはぬぐえない。けれどこれからも日々は続く。
失態は早く切り替えたほうが良いのは分かっててもなんでだかうまくいかない。
「お待たせしました。コーヒーふたつとミルクティー、大砂丘とマンゴーマリトッツォとマスカットマリトッツォ、クラウンメロンパフェでございます」
ミルクティーはアザレアが選んだ。砂糖を入れればアザレアも飲める味になるし、何より本人も大人気分になれるようでよく注文している。
するとアザレアが「ねえ、」と声をかけてきた。
「メロンひと切れあげるから元気出して」
「アザレア……ありがとう」
せっかくなのでそのメロンをひと切れ受け取ると温かい気持ちになる。
アザレア、控えめに言って天使なのかもしれない。
「ちんびいにいい子じゃんね。レヴズ、俺のもおもやいっこしまいか?」
「おもやいっこって何ですか?」
「分けっこ」
「それは大丈夫です」「うん」
そう言いながらさっそくマンゴーのマリトッツォにかぶりついて「美味い」とつぶやく。
頬には思い切りマンゴークリームがべったりついていて、それが妙におかしくてつい笑ってしまう。
「早く食べりん」
「そうですね」
かじりついた大砂丘はふわふわで甘くほんのり秋の味がした。



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ブルーレヴズとシャトルズとアザレア。
三河弁わかんないのでミスがあればこそっと教えてください。

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海は初秋に染まりゆく

昼下がりの湘南の岸辺は人影が少なく、少し寒いくらいの潮風がさわりと頬をなぞった。
海岸沿いにちらほらと落ちるプラスチックごみはカバンに入れてあるごみ袋にひとつふたつと詰めておくことにした。
今回千葉くんに頼まれたプロジェクトは、飲料缶用鋼板を利用した新しい容器の開発を通して地域企業と協働しプラごみ削減に貢献するという名目のものだ。
(……こうして見るとプラスチックごみって本当に多いのね)
鉄鋼製品のメリットとしてリサイクルのしやすさが謳われるようになってまだ日が浅く、その事実に対する世間の認知度は低い。
しかし鉄のリサイクル率の高さの普及と新市場の開拓を一気に行えるアイディアは川鉄さん的というか、千葉くんや水島ちゃんの頭の柔らかさには脱帽ものだ。
そうやってごみを拾っているとピンク色の小さなものが目に留まる。
淡いピンク色の小さな貝殻は確か、サクラガイといっただろうか。

(こういうのも視点の変化よね)

他にも貝殻を拾ったら、その時は千葉君にも一つあげよう。
そう思いながらその小さな貝殻をティッシュにくるんでポケットに入れ、もう一枚の貝殻を探しながら時間ぎりぎりまで海岸線を歩いて過ごした。


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京浜さんの話。

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逢いたかった人

「……という訳で今度のともだちマッチはキャンセルさせてほしい」
『そんなぁ』
電話越しに落ち込んだ声を隠さない後輩に自分としては「すまないな」としかいうことが出来ない。
このご時世でも岩手に行くと言ってくれたブルーレヴスには申し訳ないが、今は人を呼ぶのも厳しい状態になってしまった。
「こっちも本当に感染予防の体制が整えられない状態になってしまった以上、お前さんに迷惑はかけられん」
『いや分かってますけどね……まあ、今回は直で説明頂きましたしもうこれ以上文句は言いません』
「本当にすまないな」
『これは全部コロナのせいですからね』
乾いた笑いを零しながらうんうんと思わず頷いた。
こんなご時世でなければもっと自由に試合をしてラグビーの季節の始まりを全身で味わえただろうと思うと、悔しさしかない。
『代わりと言っては難だが、今度のお前さんの初陣は精一杯応援させてくれ』
19日にはブルーレヴスとしての初めての試合が控えていることは知っていた。
初陣にあたるその試合は日本中のラグビーファンが注目する試合だろうという事は予想がつく。
本当は詫びの品でも送るべきだろうがあいにく財布が寒々しくて出来ることがそれぐらいしかないことは黙っておく。
『見てくれるんですか?』
「ああ、お前さんのために今できることがそれぐらいしか無いしな」
『ありがとうございます』
厳しい時代に船出を迎えた後輩に、半歩先の先輩としていえる言葉はひとつしかない。

「頑張れよ」

『シーウェイブスさんも、もう少し落ち着いたら試合しましょうね』


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シーウェイブスとブルーレヴズ

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祭りの後の静けさに

「ああああああああ~……」
パラリンピック閉会式中継用カメラのセッティングをしながらこぼれたため息に、隣にいたシャイニングアークスさんがこっちをにらみつけた。
「ため息がでかすぎません?」
「だって寂しいじゃないですか、夏と一緒にオリパラも終わっちゃって……」
「あなた一番ノリノリでしたもんね、毎日マスコットと試合実況してましたし」
「中継担当の手伝い名乗り出たのは確かに僕のほうですけど、実際もうすぐ終わりってなると寂しいですし」
「気持ちはわかりますけどね。カメラの準備出来ました?」
「どうぞ」
カメラ端子を繋いで特設サイトでの中継準備を進めるシャイニングアークスさんに対し、僕のほうはもうカメラの設置準備の進捗確認だけなので隣に腰を下ろす。
「これでしばらくお祭りがなくなっちゃいますねえ」
「たった半年の我慢ですよ」
「新リーグ?」
「それ以上の祭りが僕らにあります?」
シャイニングアークスさんがニヤリと悪巧みを思い付いた子供のように笑う。
「確かに」
この世界最高の祭りは今日で終わる。
だけどまだ楽しい事が僕らを待っているのだ。



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イーグルスとシャイニングアークス。
五輪ゴールドパートナー(親会社が)コンビでした。

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