ただいま、と言って玄関を開けると珍しく和歌山がいなかった。
今日は一日休みだという和歌山のお帰りという声を自覚なく待っていた自分に気づいてこっぱずかしい気持ちにさせられる。
とりあえず茶の間に行くとほったらかしにされたネット通販の段ボールと一緒に殴り書きの置手紙がひとつ。
『海水浴場でドローン飛ばしてきます、夕方には帰ります』
本人の言うところの海水浴場はここからはそう遠くないが、夏の日は長いと言えどぼちぼち日も暮れる頃合いだ。
(……迎えに行ってやるか)
でも出かけていく前に段ボールぐらいは畳んどいて欲しかったところだが、本人に片付けさせよう。
***
晩夏の夕暮れの海水浴場は人も少ない。
もう夏休みも終わっているし、平日だから来る人もいないのだろう。
子どものように目を輝かせた和歌山はこの新しいおもちゃを手足のように操ることに夢中のように見えた。
ふとドローンがこちらに近づいてきて、ゆっくりと降下してくると俺の足元に着地した。
「迎え着てくれたんだ」
「もう日が暮れるのに帰ってきてないからな。にしても、仕事用じゃないよな?このドローン」
少し前からドローンを使って高炉の点検をするという話があり、初めに古い高炉が多い和歌山が担当に選ばれてドローンの運転を勉強していた。
確かにドローンは面白いとは言っていたがオンオフの切り替えははっきりしてる和歌山の事だ、たぶんこれは仕事の自主練などではなく……。
「自分の遊び用に買ったやつ」
「やっぱりか」
「室内でも飛ばせるけどせっかくカメラ付き買ったから外で飛ばしたくて。写真あるけど見る?」
新しいおもちゃに興奮する幼稚園児さながらの表情で新しいドローンの砂を落としつつ俺に見せてくる。
どういう種類のものかは知らないが本人が気に入って選んだのならいいんだろう。
俺と一緒になってからはどんな時でも自分の気持ちに嘘のない顔をする。それを見ているといつも穏やかな心持で居られた。
「写真は後でな、もう日も暮れて寒くなってきたし帰るぞ」
「そうだね。ラーメン食べて帰ろう」
和歌山は右手にドローン、左手に俺の手を掴んで砂浜を歩く。
俺もその手に指を絡めつつ日のくれた砂窯をただ歩いて帰った。
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和歌山海南ふーふ。