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コーギーとお昼寝

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コインの落ちるまで

このところ、八幡はよくアメリカに行っているらしい。
久しぶりに本社に来たら置いてあった明らかに外国製っぽいチョコレートやカップケーキの粉を、鹿島が嬉々として開きながら「此花は何食べる?」と聞いてくる
「好きにしなよ」
「じゃあこのイースター限定の奴にしよーっと。先戻ってるねー」
インスタントのコーヒーを淹れながら、ここにアメリカ製のお菓子がある理由を考える。
八幡が今アメリカに行く理由などひとつしかない。
USスチールとの合併の打ち合わせでモンバレーと話し合うためであろう。
(そのついででお土産買う余裕あるんだから元気だよなあいつも……)
おおかた釜石に贈るついでにみんなに配る分も買いこんでるという程度だろうが、日本で見たことないお菓子を人の金で食えるという事実に文句を言うべきではないのだろう。
休憩用のコーヒーを手に事務所に戻るとさっそく鹿島がチョコを貪り食っている。
「そのチョコ美味いか?」
「塩気が効いたキャラメルと甘いチョコが組み合わさっててめちゃくちゃ甘くて疲れた頭に染みるよ~」
「じゃあ私も食うか」
コーヒーを渡してから試しにひとつチョコを取ると、和歌山が「此花ってチョコ食べるっけ?」と聞いてくる。
正直糖質はお菓子よりアルコールで摂取しがちだから甘いものを食うイメージがないのは分かるが、そんなにイメージ無いのかね?
まあ甘いもん食う時って神戸からお茶に誘われた時ぐらいだしな。しょうがないか。
食べてみるとミルクチョコの濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、ブラックコーヒーで流し込んでも微かに口の中にチョコの甘さが残る。
「八幡さんも本気でUSスチール買いに行ってるんだよね」
和歌山がポツリとつぶやく。
「まあ、上は本気だろうし八幡もある程度本気だからわざわざアメリカ行ってるんだろ」
人間ではない私たちが海外に行くにはめんどくさい手続きを経て特殊なパスポートを取得する必要があり、その手間から持ってない奴も多い。
「なんか俺が小さかった頃は世界一だった会社がうちの子会社になるかもって思うと変な気分にならない?」
「気持ちはわかる」
例えるなら子どもの頃は果てしなく遠く感じていた場所が大人になってから本当は大した距離ではないと気づいた時のような複雑さがある。
向こうは生き死にがかかっているのだからそんな哀愁を向けられても困るだろうが、こっちが勝手にそう思うだけなら何も言いはしないだろう。
「でも本当にうちに来るか分かんなくない?大統領選までに合併しないとうやむやになりそうだし、まだめちゃくちゃ揉めてるんでしょ?」
チョコをかじりながら鹿島の指摘を受け止める。
「俺らに出来るのはトスされたコインがいい面を出してくれることだけだよ」
鹿島がそんなことを言いながら「ごちそうさま」とつぶやいた。
「残りは和歌山に渡すから海南に持ってけば?」
「鹿島も気遣いできる子になって……ありがたくそうするよ」
ただ単にチョコが甘すぎて量食えないだけでは?という気づきは胸に仕舞い、鹿島の成長にちょっと心が温まるのだった。




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此花と和歌山と鹿島。USスチールのはなしなど。

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とんかつと車券

「っしゃ!」
喫煙所の前を通りかかると小倉さんが声をあげているのが聞こえ、思わず中を確認するとスマホを手に拳を握りしめていた。
何があったのかと思った瞬間にふと目があって「通りがかりに声がしたので」と言い訳をすると「戸畑、お前昼飯食ったか?」と聞いてくる。
「いえ……これから上がりですけど」
「じゃあちょうどいいな、飯食いに行こう」
「良いですけど給料日前ですよね?」
私達は人間では無いが基本的な待遇は社員と同等なので給料はしっかり出るし、生活費は出ない。
納税義務が無いので実際の手取りは社員より多めとはいえ何かと値上がりのこのご時世ではお金は足早に消えていき、給料日前だというのに奢って貰うのは少々気が引ける。
「さっき小倉競輪の車券が当たってな、100円が5000円になった」
当選結果の画面を見せびらかしながらご機嫌な様子でそう言うので本当に問題はなさそうだ。
「なら有り難く」

***

トンカツ屋に行くのは久しぶりだった。
『トンカツをいつでも食えるくらいがそれが偉すぎず貧しすぎないちょうどいい状態だ』と誰かが言っていたが実際はそうもいかず、何かと多忙な暮らしの中では時間のかかる揚げ物を食べに行く余裕は意外となかった。
「そういえば、小倉さんには何かと悪い遊びばかり教わった気がしますね」
「悪い遊びってなんだよ……」
「賭け事の楽しみや昼酒の良さですかね」
子どもだった私が八幡さんの横に立てるような存在になりたいと頑張っていた時、小倉さんはたまにご飯を奢ってくれたり遊びを教えてくれた。
職員達がやっていた賭け事のことや酒とタバコをいかに嗜みかたなど八幡さんは絶対に教えたりしなかったし、逆に教わってたから自分からやりたいとそこまで思わなかったのかもしれない。
「悪いおっさんみたいに言いよって」
小倉さんが困ったようにぼやいていると、お店の人が注文の品を持ってくる。
「お先に瓶ビールとコーラお持ちしました」
「あ、ビール私です」
瓶ビールとグラスを受け取ると早速一杯飲んでみると仕事終わりの身体にじんわり染み込んできてしみじみ美味い。
「ったく、遠慮しないな」
そうぼやきながら瓶コーラをちびりと飲むので「小倉さんも飲めば良いじゃ無いですか」などと揶揄ってみる。
「午後から高炉の仕事だから呑んだ状態で入ったら怒られんだろうが」
「それは確かに」
どうしようもない雑談をしながらビールを飲み、のんびりとカツがあがるのを待つ。
こんなのんびりした日もまた必要なんだろう。


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戸畑と小倉のしょうもない話。

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あの子と芝の青

曇天のミクニワールドスタジアムにどこかかしましい雰囲気を感じるのは気のせいだろう。
(普通に大会の緊迫感もあるしな)
ナナイロプリズムがいるはずの場所をうろうろと捜し歩いていると「どうかされました?」と声がかかる。
濃いピンクと紫のロングヘアに三日月の浮かんだ瞳はおそらく≪こっち側≫の存在だろうと分からせる。
「きみは?」
「今年から参戦しました武蔵横河アルテミスターズと申します、あなた様は?」
「自分は九州電力キューデンヴォルテクス言います、ナナイロプリズム福岡に会いに来たんやけど……」
「でしたらもっと奥の方にいらっしゃいますわ」
指さす方には確かに見覚えのある選手やスタッフがおり、多分あの辺にいるのだろうと察せられた。
アルテミスターズに軽く会釈をして別れるとみんなの渦の真ん中に可愛い妹分がいる。
「あ!」
「おつかれさん。差し入れにスポドリ持ってきたからみんなでどうぞ」
大きいボトルのスポドリをスタッフさんに渡すと、ナナイロプリズムがその名の通りナナイロに輝く瞳をきらめかせて「あのね!」と前半の試合の事を語り始める。
その瞳の輝くさまを見ているとこの輝きを守れたらと心から思う。
ブルースやレッドスパークスのようにその瞳を一時でも曇らせることなく、ラグビーへの愛と希望に満ちた時間を一瞬でも長く味わっていてほしい。
前半の試合に負けてしまったらしいナナイロプリズムはちょっと落ち込んでいるようだったが「でもこの後の試合は頑張る!」と元気に宣言する。
その様子を選手やスタッフも微笑ましく見守っていて空気はちょっと穏やかだ。
「ナナイロ、この後の試合も楽しんどき」
「うん!」




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キューデン先輩とナナプリちゃん。
そしてしれっと初登場アルテミちゃん

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君も同じ空の下

目前の階段をバイクで駆け上がる迫力に観客が目を丸くしているのを、レヴズはにやにやと見つめていた。
「成功しましたね」
「よかったな」
レヴズの嬉しそうな声は観客の喜びを感じてるのだろう。
それを尻目に今日から女子セブンスの大会で北九州に行っているパールズの試合の様子をざっと確認していると「空返事ですね」とぼやかれる。
「ちょっと気になって」
「まあ気持ちは分かりますけどね?空返事はやめてくださいよ」
レヴズにとってのアザレアと俺にとってのパールズってだいぶ位置付け違うんだけどな、まあいいか。
「悪かったって。バイクパフォーマンス演出の受けが良くて嬉しいって話だろ?」
「分かってくれるならいいです」
「……レヴズだって、ジュビロさんやアザレアと試合被ったら様子気になるだろ?」
「そりゃ気にはなりますよ。 でも

うちの兄さんもアザレアも最高で最強だと信じてるので、僕の試合の後に本人から直接勝ったって聞く方が良いじゃないですか」

さらりとまっすぐな情愛がレヴズの口から飛び出してくる。
俺だってパールズの強さを信用してないわけじゃないけれど、どうしても心配や気がかりが湧いてくる。
(これが愛と恋の違いなんかな?)
遠く北九州の空でパールズを想う気持ちを考える。
「それに、彼女さんも自分のこと気にされて試合に負けるぐらいなら自分の事なんて微塵も考えずに試合に勝ってくれた方が良いと思いますけどね」
そう言いながらレヴズが指さすのは俺が前半無得点であることを表示した電光掲示板だ。
前半無得点の俺への挑発めいた言葉にちょっとムッとしてスマホの電源を落とす。
「後半逆転してパールズへのお土産にしてやるからな!」
レヴズは俺の言葉に満足したようににっこりと笑った。



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ヒートさんとレヴズさん。
きょうから北九州では太陽生命ウィメンズセブンスが始まります。

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洒落にならない嘘はやめましょう

年度初めの仕事はどうしてこんなに憂鬱なんだろう、そんな気持ちを込めたため息が思わず出てきたのはきっとみんな同じだろう。
四月一日の夕方、少し無理して定時で上がったあとにふとLINEの着信音が響いた。
そこには見知らぬ女性と並ぶ結城さんの写真と共に、結婚しましたと言う挨拶が並ぶ。
「は?」
思わず取りこぼしそうになったスマホをぎゅっと握りしめ、もう一度画像をしっかり検分するがタチの悪い悪戯の可能性をいまいち感じられない。
(……やっぱり本当っぽいな?)
この見知らぬ人は福井県福井市だと言うが、そもそも接点あったっけ?と思わず確認すると姉妹都市なのだという。
「あ゛ー゛……」
正直結城と言う人のみならずあの土地の人間が自分以外の誰かを愛するイメージが持てなくて、だからこそ今ものすごく俺はモヤモヤしている。
土地としてはともかく個人としては絶対に俺以外の人を愛さなさそうな人が、タチの悪い嘘だとしても俺以外の誰かと結婚するなどと言って欲しくなかった。
「これが嘘なら明日思川に投げ捨ててやる……」
「すいません120%嘘です」
ひょっこりとどこからか出てきた結城さんが逃げようとしたので反射的に襟首を捕まえると、思い切りコブラツイストをかける。
「あだだだだだだた!!!!!すいませんちょっと嫉妬して欲しくてやりました!!!!!というかラーメン祭りに向けてプロレス技練習してるからって私使うのはだだだだた!!!!!」
俺のモヤモヤと怒りを込めたコブラツイストによる悲鳴はその後10分近く役場前に響いていた。


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エイプリルフールの結城小山。
基本的に小山さんって結城さんからの愛を信じてそうだよねと言う幻覚。

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