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コーギーとお昼寝

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滝凍る朝のこと

冬は寒ければ寒いほどいい。
ロングコートにぐるぐる巻きのマフラーと耳あてのついた帽子をかぶって、カメラを片手に真っ暗いトンネルを抜ける。
ぱあっと抜ける朝のひかりと共にささやかな水音が響いてくると、ちょっと残念だ。
人のいない観爆台。目の前には時を止めたかのように白く凍る袋田の滝が広がっている。
「……きょうは8割強って感じかなあ」
まだ完全凍結には物足りないけれど、天気ばかりはしょうがない。
カメラを置いて氷の凍結度と共に観光協会のひとにメールすれば、あと2~3時間後には更新されるはずだ。
まだ誰もいない早朝の滝のキンと冷たい空気と微かな水音は好きだ。
椅子に腰かけて、鞄に入れておいた奥久慈茶とおにぎりを取り出す。
湯気の立った熱いお茶は凍える身体をじんわり温めてくれる。
「きょうもよろしくね、滝さん」
僕そのものであるこの街の象徴である滝は、おうと答えるようにその言葉を吸い込んだ。







大子町と袋田の滝の話。

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雪の夜を歩く

「……随分降りましたねえ」
昼寝から目覚めると時計は夜の7時過ぎを指していた。
窓の外には白い綿のような雪が積もり、雪の止む気配は感じられない。
ぐうっとお腹の虫が鳴くので台所に降りて冷蔵庫を開くと、何もない。
作り置きの副菜が二つ三つ。ご飯やみそ汁の類もない。
「しょうがないですかね」
ぽつりとつぶやいて上着とマフラーをつけて雪の街へ買い物に出ることにした。

***

雪解け水と混ざり合って解けた雪を踏みしめながら、ふうっとこぼしたため息が白くなって夜風に溶ける。
こうも寒いと鍋が食べたくなる。鍋を食べるならば私の愛する隣人もいて欲しい。
(……まあ来ないでしょうけどね)
無理やり押しかけてしまおうかとも思ったが足が無いからやめておこう。同居人である水戸線も今日は不在だ。
下館や古河もこの雪では外に出てこないだろう。古河辺りはかつての城主さながらに雪の結晶の観測でもしていそうだ。
ああ、こう寒い日に一人というのは心がざわめく。





結城さん雪の日の話。

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悲喜こもごもの酒と乾杯

例年、入れ替え戦後はシーズン終了を祝う飲み会が催されている。
元々試合後にはみんなが集って酒を飲むことが多く(これはラグビーのノーサイド精神に由来するものなのだが詳細の説明は省略する)そこから、今シーズンの振り返りと来シーズンの顔合わせなどを行う飲み会が例年優勝者の家で行われていた。
「去年に引き続き今年も俺の家で打ち上げ会ができることを心から歓迎します、とりあえず乾杯!」
全員が青いビールの缶を高々と掲げればそこからは無礼講である。
「サンゴリアス、二年連続で打ち上げ会場にされるのも一苦労だな」
「あと5回はうちで打ち上げ会やれるようにしないと」
ブラックラムズさんにそう返すと、スティーラーズさんも「言うたな?」と笑ってくる。
「まだシーウェイブスの記録をお前に破らせたくはないな」
「俺の記録、じゃないんですね」
「先にV7を打ち立てたんはあいつやからな」
スティーラーズさんが自分ではなく今は二部リーグに籍を置く彼の名前を挙げたことに意外性を感じてしまう。
確かに80年代の日本ラグビーを知る身としては彼の打ち立てた7連覇への憧憬はあるが、同じように7連覇を成し遂げたスティーラーズは謙遜する必要がないのに敢えてそれをシーウェイブズの記録と呼んだのは先に大記録を打ち立てた相手への敬意なのかもしれなかった。
「スティーラーズがシーウェイブズを拗らせているのは今に始まったことではないがな」
「中二病の羊に言われたないですー」
「喧嘩ならいくらでも買うぞ?」
「おうおう俺もいくらでも売ったんで?」
「ラムズさぁん」
口喧嘩一歩手前のスティーラーズとブラックラムズに口を挟んだのはイーグルスだった。
どういう訳か上半身裸で、普段は滅多に見せることのない純白の鷲の翼まで出している。
「……酔ってるな?」
「まだひとかんだけだからよってませんよ?」
そうは言うものの顔はずいぶん真っ赤だ。
そう言えばイーグルスは下戸であり、東京組(サンゴリアス・ブレイブルーパス・イーグルス・ブラックラムズ)で飲むときも酒を飲ませると一番最初に酔い潰れるのはイーグルスだった。
しかしイーグルスはあまり酒を好まないし飲ませて最初に潰れるのも面倒なのでオレンジジュースを置いておいたはずである。
「飲んだんだな?」
「のみかいだからぶれいこうですよぅ、ぶるーすくんのびーるとこうかんしてもらったんです」
なるほどそう言うことか。
「……なあ、サンゴリアス。イーグルスってあんな酒に弱いんか」
「東京連中で飲むと一番最初に潰れるのがあいつですね」
「酒神の血ぃひいてるお前と肝臓だけロシア人のブレイブルーパスと比較するのは酷やろ」
「それを抜きにしてもビール一杯でほろ酔いになれるのはイーグルスぐらいでしょ、後のことは任せます」
「え、ちょっ」
酔っ払いの相手を二人の先輩に丸投げして他に目をやれば、ブルースとレッドハリケーンズが涙のお別れ会をしていた。
「こうやってブルースと次飲めるんはいつやろうなあ……」
「早よ戻ればよか」
「せやけど、俺とライナーズ先輩居らんかったらスティーラーズ先輩が関西ぼっちになるやん?」
「うちの先輩も一人やっちゃけど元気にやっとるばい」
同い年のちびっ子コンビのなんだか切ない会話はスルーしておこう。あとたぶんスティーラーズさんなら関西ぼっちでも平気だと思う。
トップリーグに戻ってきたホンダヒートはグリーンロケッツさんとかシャイニングアークスさん辺りを巻き込んでさっそくぎゃあぎゃあやり始めてる。というかスピアーズさんなんで黒田節とか歌っちゃってんだ。槍繋がりか。
新たにトップリーグに加入するレッドドルフィンズはトヨタ双子に挟まれて雑談中。
ライナーズさんとジュビロという不思議な組み合わせの2人はサッカー談義中のようだ。
特にだれもハブられることなくみんなわいわいとしている。
(……ま、飲み会としちゃあ成功だよなあ)
とりあえず酒を時々追加し、捨てられた空き缶やごみも随時回収して周囲にざっと目を配りながら1缶目のビールを綺麗に飲み干した。
「サンゴリアス、」
声をかけていたのは隅にいたワイルドナイツだった。
空っぽになったビール缶を俺の方に突きだすと「二杯目のおすすめってある?ビール以外で」と訊ねてくる。
「ウィスキー樽で熟成された梅酒は?」
「じゃあそれで、あと、」
にっと微かに口角を上げてタブレットPCを取り出すと、そこには今シーズンの試合の実況映像が流れている。
「酒飲みながら一緒に今期の試合分析しよう」
それがどんな誘いよりも魅力的に響くのは、やはり俺がどうしようもなくラグビー馬鹿だからなんだろう。
「俺で良ければ」




シーズンがついに終わったのでみんなの話。

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あの娘の白い傘

福井はいつも年代物の白い傘を使っている。
年代物だというのに汚れの薄いそれは薄曇りの街ではよく目立った。
「まだあの白い傘使ってるんだ」
「気に入ってるのよ」
福井はふふっと汚れなき笑みをこぼして言う。
その傘は結城さんが買ってあげたものであることを俺は知っている。
ぱっと傘を開いて玄関を出る彼女を追いかけて俺もビニール傘を開いて後ろについていく。
街は冷たい冬の雨に打たれ、泥と混ざった雪が道路をぐしゃぐしゃにしていて、ただでさえ薄曇りの空をさらに暗い色に染め上げている。
そのなかであってもあの白い傘は特別華やかに生えた。
「鯖江、」
「……そこ曲がるとこでしたっけ」
「こっちに新しいコンビニが出来たから、近道しようと思って」
細い路地裏に入ると、白い傘は砂漠に咲く花のように目立った。


(……果たして結城さんはそこまで考えて福井にこの傘をあげたのだろうか)

ぼんやりとその後ろを歩きながら考える、ある冬の夕暮れ。


鯖江と福井。

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明日晴れたら

「釜石おじいちゃんなにしてるの?」
片方の耳にイヤホンを挿したままパソコンを弄っていたおじいちゃん、もとい釜石さんに聞いてみると「ラグビーの結果を見てた」とかえって来る。
「へー」
「シーウェイブスの試合結果の確認と日本選手権決勝の実況をな。今はネットで実況が聞けるからテレビが見れなくても確認できて便利だよなあ」
画面は入れ替え戦の結果が表示されていたけれど、切り替えてみればネット中継の操作画面も出てきて器用なものだと感心してしまう。
「あー、確かに」
「聞くか?」
「俺ラグビーは専門外だからいいや」
「明日神戸とラグビー見にいく予定でなあ、お前さんが興味があるなら連れて行こうかと思ったんだがなあ」
「じゃあ俺と一緒にアントラーズ戦見にいってくれる?場所は東京じゃ遠いだろうから仙台で良いよ」
「サッカーはルールがさっぱりでなあ」
「まあそうだよねえ」
予想通りの回答に軽い溜息なんか漏らしつつ、暇つぶしがてら中継映像を一緒に眺めたりなんかする。
和装に大人の落ち着いた雰囲気を醸し出すこの人のことは大して詳しい訳じゃない。
君津に言わせてみれば『うち(新日鉄)のなかでもあの人は特別』なんだそうだけど、なんとなくわかる気がする。
最年長の風格って奴なんだろうなあ、これ。
此花の厳しくも面倒見のいい感じとか、八幡さんのあの怖そうな雰囲気とか、そう言うのとは全然違う一人だけ超然としてるような空気はこの人特有のものだと思った。
「おっ、」
画面の中で一人の選手がボールを掴んで独走していく。
そして彼はゴールラインを割り、高らかなトライコールと笛が響いた。
「これでいよいよ分からんくなって来たなあ」
嬉しそうに笑う釜石おじいちゃんに「そうだねえ」と俺はかえすばかりであった。





おじいちゃんのいない鹿島は釜石をおじいちゃんに見立ててたら面白いなあというアレ。

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