目が覚めて一番最初に目に入ったのはいつもつけているお守りと黒い石。
いつも寝るときは枕元に置いているのだから当然と言えば当然のことだろう。
ピンと張りつめた冬の朝の空気に抗ってお守りと黒い石を首に飾る。
おはようさん、と囁くような筑豊訛りが響く。
「……配炭か」
この声は半世紀以上前に死んだ友人の声であった。
そう言えばこの石は彼が死んだときに形見として拾った石炭のかけらであったことを思い出す。
半世紀という月日の中で朧気になっていく友人を忘れるのが恐ろしくてこうしてあの日拾った石炭をネックレスにしたのだ、それすらも忘れてしまうとはつくづく嫌になる。
彼の元にいた選手数名がうちに来たとき、彼の記憶や声の一部がこちらに移されたらしく時折こうして彼の声を聴くことがあった。それも記憶にある限りここ5年ぐらいは聞いた記憶が無かった。
頭の中の掠れた断片的な記憶が再生させているものなのか、それともそれ以外の何かなのか。それすら判別がつかない。
彼のことを忘れるべきじゃない、と小さく自分に言い聞かせて布団から出ていく。
この石の意味すら忘れてしまったら、きっと君のことはどこにも残らなくなってしまうから。
キューデン先輩の話。