試合後の片づけを終えた夕方の河原に醤油だしの煮込まれた香りがする。
サンゴリアスに追加で買って来てほしいと頼まれた商品をぶら下げながら、目的地に到着すると思わず「ホントにやるのかよ」とつぶやいた。
「あ、ヴェルブリッツこっち!」
サンゴリアスが県のラグビー協会関係者などと一緒に大きな鍋の番をしていた。
アフターマッチファンクションも兼ねて芋煮をする、という話は本当だったらしい。
「ホントに今日芋煮会の準備してくれてたんだな」
「うん、一度本物のいも煮を体験してみたかったから県協会の人に話したらすんなり話が通っちゃったんだよねえ」
大型の寸胴鍋からは鍋の煮える心地よい匂い、さらに白米の炊ける香りまでしてくる。
すでに出来上がった芋煮と白米には選手とスタッフが行列を成しているあたり、俺たちは醤油と米の匂いに弱いのだと思い知らされる。
県協会の人が「もう食べごろですよ」と声をかけてくれた。
サンゴリアスの手でスチロール製のお椀になみなみと牛肉醤油の芋煮が注がれる。
さらに県協会の人が地元のブランド米で作った炊き立てご飯のおにぎりも渡してくれた。
「「いただきます」」
おにぎりにかぶりつき、芋煮のつゆをすする。
肉と野菜の溶けた塩気の強いつゆがご飯の甘みを引き立ててくれる感じがする。
「うめえ……」
「わかる。こういう肌寒い日の鍋ってホントに沁みるよねえ」
里芋もほくほくしつつ独特のねっとり感がって、そう言えば久しぶりに食ったかもなあなんて思い出す。
地元とは違うけれどこういう素朴な味付けは割と好きだ。
「あとこのおにぎりもすごいと思う。つや姫は甘味や旨味ではコシヒカリ以上と言われてるけど、こうして食べるとホントだってなる」
食べるのも作るのも好きなサンゴリアスの食い物うんちくは置いといて、二杯目の芋煮とおにぎりを貰ってひたすら喰らう。
選手たちも今日ばかりは飲むより食いたいようで、芋煮もおにぎりもものすごい速さで消えていく。スタッフ連中は芋煮で日本酒を味わっているが。
(こうして美味いもん食ってると山形まで来てよかった気がしてくるな)
試合に負けた悔しさはある。けれど美味いもんを食い、酒を飲み、わいわい話して良きライバルたちと交友を深める。そういう時間だ。
「山形遠征楽しかった?」
「まあ悪くはなかった、若手や新人に経験積ませてやれたしな」
「俺も楽しかったよ」
県協会の人が今度は〆うどんを持ってきてくれた。
「試合の勝ち負けとか選手の経験値とかも大事だけどさ、こういう美味いもん食いながらラグビーの話すんのが結局一番楽しいよね」
「それはそれでどうなんだよ」
芋煮うどんて手を付けてみると、芋煮の美味さを吸ったつゆがするりと臓腑にしみわたる感じがする。
(これもうまいな、シャトルズが好きそうだ)
確か昨日からシーウェイブスのところに行っているはずのシャトルズのことをふと思い出した。
「芋煮うどんうちでもやろうかな」
「うどんのために鍋やるのか?」
そんな話をしていると県協会の人がさっきまでサンゴリアスの見守ってた鍋に俺の持ってきたカレールウを溶かしていることに気づく。
「あ、いま〆カレー作ってるんですけど食べます?」
山形は俺の舌と胃袋を飽きさせるつもりがないらしい。
ラグビーより食い気に走ることを今日だけは許して欲しい、そう誰かに詫びつつも「「ください」」とシンクロして答えていた。
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ヴェルブリッツとサンゴリアス。山形といえば芋煮だよね。