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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

いつでも君は

いつもより不安の滲む指先で発信ボタンを押すと、すぐになじみ深い声が聞こえてくる。
「佐賀関、大丈夫?」
『うちんとこは無事だぞ』
聞き馴染みのある声で宥めるようにそう答えてくれるのがありがたい。
自分が生まれるよりもずっとずっと前からいてくれたひとがいなくなってしまうかもしれないのは、やっぱり少し怖かったのだ。
『心配してくれてありがとうな』
「……ん」
『で、心配してくれるのはありがたいんだが今ちょっと地域支援の打ち合わせでこっちもバタバタしててな。あんまり長電話する余裕ないんだわ』
「それはごめん」
『落ち着いたらまたうち来いよ、じゃあな』
そう言って電話が切れる。
二言三言しか喋っていないけれど、身近な知り合いの無事が確認できたというだけで気持ちは少し落ち着いた。

(……早く火事が落ち着いてほしいな)

こういう時は本当に思う。平穏が、何もないことが一番いいのだ。
週明けに八幡と会ったら地域支援の提案も出してみよう。
そんなことをじっと、考える。

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大分と佐賀関。
被災された皆様にお見舞い申し上げます。大規模火災が早く落ち着きますよう、お祈り申し上げます。

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雨と悪魔とHalloween

「トリックオアトリート?」
秋雨降る夜に突然鳴り響いたチャイムで玄関を開けると、本格的な悪魔のコスプレをしたブラックラムズ先輩がいた。
「とりあえず中入ってください」
ゴシックホラーに出てきそうな本格的なコスプレに合わせた黒い雨傘を傘立てに突き刺し、暖房の効いた部屋へと招き入れる。
「ハロウィンのコスプレですか?」
「チームイベントでコスプレをしたのだが、思いのほか好評でイーグルスにも見て貰おうと思ってな」
細かい刺繍やフリルの入ったロングコートはいかにもゴシックという雰囲気だが、それを一枚脱ぐとフリルの入った真っ白のシャツとレースネクタイが出てくる。
細身のぴっちりした黒いパンツは脚線美を際立たせ、足首から覗く純白の靴下も美しい。
さらに敢えて血色悪そうに入れられたメイクのお陰でクオリティの高いコスプレとなっており、自前の羊の角もより悪魔らしさを引き立てている。
「なんかそういう舞台に出てきそうな服装ですね」
「ハロウィンだからな。と云う訳で、おやつと悪戯何方を選ぶ?」
「冷蔵庫にカボチャのプリンあるんで半分こしませんか」
「良かろう。しかし今の我は悪魔だからな、貪欲に悪戯も行かせて貰おうか」
そう言って僕の服の襟元を掴むと耳にカプリとかみついた。
想定外の場所に想定外の刺激を得てビクンと体をj跳ねさせた僕を見て、先輩は満足げに「隠せぬ跡が出来たな?」と耳元でささやく。
確かに耳というのは隠すに隠せないし悪戯としては高度だけど驚きの方が先に勝ってしまう。
「いたずらというよりドッキリされた気分です……」
「物足りないか?」
「もっと色々されるのかと」
「其れならば、褥の上でするか?」
ストレートなお誘いは悪魔の誘惑に似て甘く、まあこの人からならばと思ってしまう僕も大概甘いのだと心底思い知るのであった。



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イーグルスとブラックラムズ。
今年も選手のハロウィンコスが無限に流れてくる季節になりましたね。

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秋祭りの屋台にて

いつもと違うお菓子屋さんの制服を着て店先に立つと、遠くにはおはやしの音がする。
秋晴れの土曜昼過ぎの空はすっきりと晴れ渡り、この様子なら明日も大丈夫だろうなんて考えこむ。
「シーウェイブスさん、もう12時半ですよ」
奥から出てきたお店の人に声を掛けられると、もう12時半だ。
今日は1時過ぎからジャパンXⅤの試合があるのでそれを見るつもりでいたから声をかけて貰えるのはありがたい。
「じゃあ今日はここで失礼しますね」
「いえいえ、急な欠員埋めてくださって助かりました」
バイト代のおまけにとシーウェイブスコラボシュークリームまで頂いてしまい、駄目にならないうちにと小走りで店を出る。
小走りで向かうのは製鉄所の社宅の一角、うちの親の暮らす部屋だ。
「ただいま」「おう、お帰り。お前の分もあるぞ」
釜石製鉄所その人はのんびり焼きそばを食べながらテレビを見ており、ついでに俺の分まで盛られている。
シュークリームは食後に回そうと冷蔵庫の隅に入れておき、さっそく焼きそばに手を伸ばす。
「今年もお祭りは盛況か?」
「天気いいから人出も多かったな」
「そりゃよかった、昨日の宵宮もそこそこ人出てたし今夜の宵宮も人出るといいんだがな」
釜石の秋祭りは市内の尾崎神社と釜石製鉄所山神社二つの神社が合同で行っているので、ひとつのお祭りに宵宮がふたつある。
製鉄所そのものたるこの人にとっては昨夜の尾崎神社の宵宮より、今夜行われる山神社の宵宮の方が重要度が高かったりする。
「これで今日のジャパンXVが快勝してくれれば最高の休日だな」
「どうなりますかね」
この後の試合の話に花を咲かせつつああだこうだと花を咲かせていると、もうすぐキックオフの時間になる。
テレビをつければさっそく選手たちの歌う国歌が響く。
「さて、今日はどうなるかな?」

―90分後―
テレビの前にいた製鉄所さんは、それはそれは多いに頭を抱えていた。
「……ここまでひどいスコア久しぶりに見たな」
「ですねえ」
50点以上の点差をつけての大敗にお互い深いため息が漏れる。
2019年ワールドカップを目標に強化を続けてきた日本ラグビーは、ワールドカップという目標を失ってから迷走気味だったがそれがここまで来たかと言う気持ちも正直ある。
「まあ、ブルームフォンテーンの悪夢よりはマシか」
「そこと比較します?」
日本ラグビー史上最悪の試合を引き合いに出されると何も言えなくなる。
けれど今日はあくまでジャパンXVであり、代表試合じゃない。本番は来週だ。
「来週はスカッと勝ってくれるといいんですけど」
「そうだなあ」
「……シュークリーム食べたら、気晴らしにお祭り行きましょう」
「だな」



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シーウェイブスと釜石さん。
昨日の試合のスコアはー……うん、どうしてああなったんでしょうね……。

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鮭食いねェ!

スピアーズが来るたびに色々と米を用意してる気がするが、今年は米が高いので取れたての銀河のしずくを用意しておいた。
「今年はこれだけかー」
「しょうがないだろ、米が高いのが悪い」
「値段はねえ……」
そのぶんおかずはいろいろ揃えておいたので、おかずを一品づつスピアーズの前に並べていく。
ご近所さんからいただいた漬物、自然薯のとろろとむかごの塩ゆで、ブロッコリーのくたくた煮にトマトのおひたし、無限ピーマンと焼きナス、シイタケのバター醤油焼き。
ちなみにお味噌汁はわかめとねぎだ。
「全部美味しそう!」
「とろろは掘るの大変だったんだからな?途中でめんどくさくなってへし折ったが」
「確かに自然薯は掘るの大変だって言うもんねえ。ちなみにたんぱく質は?」
「あるに決まっとるじゃろうが、ちょっと待て」
どんと目の前に出したの大きな石製のプレートに乗せられた鮭の切り身。
付け合わせ無しのシンプルな一品だが脂ののった鮭がじゅうじゅうと立ち上らせる香りだけで十分であろう。
「南部鮭の溶岩焼きじゃ」
「シャケ!ちょうど今の時期だもんねえ~。そういえばフライキーも持ってたよね」
「釜石の名産だからな。まあ他所の地域の人には岩手と鮭は結び付きにくいだろうが……」
チームマスコットには以前からしゃけのぬいぐるみを持たせてるのだが、県外から来た人にはいまいちイメージが湧きにくいらしく不思議がられる。
まあそれも含めて地域PRになると思えばいいのだろう。
「いただきます!」
そんな独り言をスルーしたスピアーズはさっそくお米に箸を伸ばすと「新米うまぁ……」ととろけたような声を上げる。
「やっぱブランド米は美味しいねえ。鮭も食ーべよ」
脂ののった南部鮭で米を喰らい、漬物でも米を喰らい、幸せそうによく食うのでもはや何も言えなくなる。
「やっぱ年一くらいで釜石遠征捻じ込めないかなあ」
「お前がこっち来るたびに米米言うから用意するの大変なんだぞ」
別に米が嫌いなわけではないが岩手の美味しいお米沢山食いたい!と言うせいで、地味に種類を揃えるのが面倒なのだ。あとで米代は払わせるし残りは自家消費に回せるからいいのだが……。
「感謝してます」
「おう」
「来年のリーグワンライジングも釜石がいいなあ」
「それならもし来年うちのチームがお前のホームで試合になったら、成田山のうなぎ奢れよ」



おまけ:溶岩プレートはどこから来たのか
シーウェイブス「溶岩プレート助かりました」
釜石「おー、と言うかわざわざ返しに来なくて良かったんだが……」
シーウェイブス「一応借り物なんで返しとくべきかと思って。というかこんなもんなんで持ってたんですか?」
釜石「……ネット通販が普及し始めた頃、翌日配送が売り文句なのを見て『本当にこんなとこまで翌日配送できるのかー?』って思って酔った勢いで買った」
シーウェイブス「酔っ払いにネット通販はダメですね」
釜石「ホントにな」

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シーウェイブスさんとスピアーズさん
リーグワンライジングの話するはずなのに何故かこうなった。

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10年ひと昔

八幡から九州の美味い焼酎を貰ったので、お礼代わりにオンラインで話しながら飲むことになった。
『にしてもまだ暑いですよねえ』
「一時期よりはマシになったから夏も終わりの気配はするんだけどなあ」
『ほんとですよ』
やれやれという面持ちでキンキンに冷えたビールと焼き鳥を味わう八幡はまだ夏の装いで、秋の遠さを感じさせてくる。
『そうだ、この間中間市の方から連絡があったんですよ』
「連絡?」
『遠賀川水源地ポンプ室の一般公開イベントやりたいんで許可くださいって事だったんですけどね。
それで気付いたんですけど、私と釜石の世界遺産登録からもう10年経つんですね』
「いや夏のカードラリーの時に思い出せよ……」
『今年の夏はUSスチールの子会社化で日米往復しながらとうちの高炉廃止&電炉化に伴う無限業務で気が狂いかけてたのでそれどころじゃないです』
「すまん、忘れてた」
そう言えば夏の間たびたび死にそうな顔してうちに連絡してきたわりに一度しか来なかったな、と思い出す。
まあその分うちにいる間コアラのごとくくっつかれてちょっと物理的に重かったが。
『10年前なんてついこの間のような気がするのに数字で出されると意外に大きい数字に思えるのも不思議ですよね』
「一世紀の十分の一と思えばまあまあデカいもんなあ」
『確かに。でも私達もう130年弱一緒にいますよね?』
「もうそんぐらいなるか」
『なりますよ。200年目も300年目も一緒ですからね?』
八幡はそんな事を言うが、正直自分が50年後も元気で居られる自信はあまりない。
会社の整理統合や災害を機に廃止という可能性はゼロじゃない、けれどもきっとそれを言ったらこの可愛い一番弟子は泣いてしまうだろう。だから、言わないのだ。
「……そうだな」



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釜石と八幡。
2025年7月で世界遺産登録10周年でした(過去形)そのイベント関係のネタとか。

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