うちのGMが退任することになった。
選手や監督の退任は嫌というほど経験してきたが、40年来そばにいてくれた人が自分の手元を去るというのはいっそう寂しいものである。
「この盃を受けてくれ
どうぞなみなみ注がしておくれ
花に嵐の例えもあるぞ
さよならだけが人生だ」
ぽつりと口をついたのは有名な詩だった。
窓には散り始めた桜の花びらが張り付いており、北国の春も通り過ぎていこうとしている。
「さよならだけが人生ならば人生なんか要りません、とも言うけどな」
そう口にしたのは製鉄所さんだった。
「なんでここに?」「GMさんの手続き手伝いにな」
GMは書類上製鉄所の所属になるので、頼めない訳でもないがよくもまあ町の端っこのほうまで来てくれたものだ。
「シーウェイブス、別れってのはいつも寂しいよなあ」
「慣れたりしないんですか?」
「わしは全然慣れんな」
「……150年生きててもそんなもんなんですねえ」
「でも、挨拶も無しにいなくなる方がもっと寂しい」
その言葉の意味を数秒かけて飲み込むと「ええ」と小さく返事をする。
「まあまだシーズン終わるまでひと月ぐらいあるか」
「ええ、せめてあの人にいいとこ見せてから見送りますよ」
さよならという悲しみだけが人生だとしても、有無を言わさず人生は続いていく。
そうして生きていくうちにまた桜のように美しい出会いは、またこの街にやってくる。
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シーウェイブスと釜石おじじ
桜庭GM退任の一報を受けて思いついたネタでした。