いつもより不安の滲む指先で発信ボタンを押すと、すぐになじみ深い声が聞こえてくる。
「佐賀関、大丈夫?」
『うちんとこは無事だぞ』
聞き馴染みのある声で宥めるようにそう答えてくれるのがありがたい。
自分が生まれるよりもずっとずっと前からいてくれたひとがいなくなってしまうかもしれないのは、やっぱり少し怖かったのだ。
『心配してくれてありがとうな』
「……ん」
『で、心配してくれるのはありがたいんだが今ちょっと地域支援の打ち合わせでこっちもバタバタしててな。あんまり長電話する余裕ないんだわ』
「それはごめん」
『落ち着いたらまたうち来いよ、じゃあな』
そう言って電話が切れる。
二言三言しか喋っていないけれど、身近な知り合いの無事が確認できたというだけで気持ちは少し落ち着いた。
(……早く火事が落ち着いてほしいな)
こういう時は本当に思う。平穏が、何もないことが一番いいのだ。
週明けに八幡と会ったら地域支援の提案も出してみよう。
そんなことをじっと、考える。
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大分と佐賀関。
被災された皆様にお見舞い申し上げます。大規模火災が早く落ち着きますよう、お祈り申し上げます。