Twitterでお世話になっているヰマチさん(https://raiot.net/imachiwhisky)宅のお子さんをお借りしてのお話。
アサヒさんからの予定変更のメールに最後まで目を通すと思わず大きなため息が漏れた。
「……暇じゃな」
ウィスキー生産企業による会議のあとに行くはずだったアサヒ本社での会議は急なキャンセルとなり、北海道へ帰る飛行機が出るまで2時間半ほどの空白の時間が出来てしまった。
東京の本社に顔を出すにしてもやることは無いし、行きたい場所もない。
すると後ろから「暇なん?」と声をかけてきたのは同じ琥珀色の目をした男・サントリーであった。
「まあ、暇と言うたら暇じゃな」
「そんなら一緒に来る?人数は多いに越したことは無いし」
「どこ連れて行く気じゃ」
「たのしーとこ♡」
「暇つぶしになるんならえいが」
「よし決定な、とりあえず地下鉄乗ろ!」
そのまま腕を引っ掴まれてずるずると引きずるように地下鉄へと載せられるはめになった。
―数十分後―
東京の複雑な地下鉄を器用に乗り換えて辿り着いたのは明治神宮外苑の銀杏並木の入り口。
そこに絶っていた黒いロングコートの青年にサントリーが手を振った。
「サンゴリアス!」
「父さん、ほんとに来てくれたんですね!」
「ちょうどいい具合に時間も空いたしな。ついでに暇してたニッカも連れて来たわ」
「……サントリー、おまえどこの女孕ましたんじゃ?」
サンゴリアスと呼ばれた青年の体つきは巨木のようにたくましく髪色も全く違う色をしていて、息子と呼ぶにはあまり似ていない印象を受ける。しかし今着ているロングコートがサントリーの愛用品と同じブランドのものである辺りは親子の名残と呼べなくもない。
「孕ましとらんわ」
「まあ似てないですもんね……ニッカさんとは初対面ですね、サントリーのラグビー部に当たりますサントリーサンゴリアスです。良ければ覚えて帰ってください」
「ああ、企業部活か。初めて会うたわ」
企業内部活の化身と言うものは大きい企業であれば一人二人いることはそう珍しくないと聞くが、身近にいたことがないのでこうしてちゃんとその姿を眼にするのは初めてである。
「サンゴリアス、そのビニール袋は?」
「父さんたぶん手ぶらかなと思って防寒グッツを。ニッカさんの分が無いのであとで持って行きますね」
「いやそがぁに気ぃ使わんでもええぞ」
「一応俺もサントリーの一部ですからね、他社に失礼は出来ません。父さんいちおう社員枠で席取ってあるから行こう」
「おう」
***
連れて行かれたのは最前列のかなりいい席で、グラウンドを走る選手の顔が視認できるほど近い席だった。
座面にはタオルのようなものと薄い座布団が敷いてどうぞとサンゴリアスが進めてくる。
「結構いい席じゃな」
「ありがとうございます、あとお湯とウィスキー用意しといたんでどうぞ」
袋から取り出したのは魔法瓶と白州の小瓶だ。ニッカ製品でない辺りサントリーの子である。
「わてもホットウィスキー飲むわ」
「父さんの分ももちろん入れますよ、あとおつまみも乾きもの買っといたんで」
「おおきに」
ミックスナッツの大袋をさっそく受け取ると、パリパリとつまみ始める。
「わしにもナッツくれ」
「ほいほい」
てのひらにパラパラとミックスナッツが乗せられてそれをちまちまと齧っていると、ふわりとウィスキーの匂いがした。
「どうぞ」
「おおきにな」
「ありがとう」
「サンゴリアス、俺にもくれへん?」
後ろからひょこりと声をかけてきたのは猫のような雰囲気の髭男だった。
「スティーラーズさんあんた練習中でしょうよ」
「練習しとったらウィスキーのええ香りがしてなあ」
ああだこうだと話し始めているがこちらとしては急に加わった登場人物に困惑を隠せず、サントリーに耳打ちをした。
「なあ、あれどこのどちらさんじゃ?」
「神戸製鋼コベルコスティーラーズ、昔の神戸製鋼ラグビー部やな」
「聞いたことあるな、たしか昔7連覇したとこじゃろう?」
「そうそう」
言われてみればサンゴリアスに比べて細身ではあるが筋肉のしっかりついた男であることが分かる。そう言われれば合点がいく。
「そんな事と試合するってもしかしてお前の息子強いんか?」
「……いや、この試合日本選手権決勝よ?」
気付いてなかったん?と付け足すサントリーに、まじかと小さなつぶやきが漏れる。
「ニッカさん、父さん。俺そろそろアップに行きますね」
「おう、行ってら」
「酒が足りなくなったら外の売店で適当に買い足してくれればいいんで。あと、勝ちますから」
「三連覇期待しとんで」
にっと笑って走り出したサンゴリアスを、実に満足げに見守るサントリーが、ほんの少し羨ましくなった。
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日本選手権決勝は15日14時キックオフ!
おまけ:スティーラーズさんとキリンさん
キリン「今日もうちの製品の配布行うんですね」
スティーラーズ「ファイヤの配布、意外に評判ええんで続けよかなと」
キリン「……そう言えば、決勝の相手ってサントリーでしたね」
スティーラーズ「そうですねえ、まああいつの親が来とるかは分りませんけどね。試合見ていかはります?うちの姐さん(神戸製鋼)が隣に居ってうるそぅなりますけど」
キリン「いえ、この後会議があるもので。結果には注視させていただきますよ」
スティーラーズ「分かりました、ほんなら期待以上の成果出したりますんで来シーズンもスポンサードのほどを」
キリン「……もう来シーズンの話ですか」
スティーラーズ「今はどこも企業部活にとって厳しい時代ですからねえ」