・始まり
リーグも終わって数日過ぎたある日、トップリーグ&トップチャレンジリーグの面々にある一通のメールが届いた。
送り主は今回の優勝者であるワイルドナイツであった。
『啓上 ともにラグビー界を盛り上げてきた皆々様方。
軽暑の候、日ざしに初夏を思わせるこのごろですがみなさまおおかわりはありませんでしょうか。
さて、例年であればリーグの閉幕後はそれぞれ優勝者が発案し地元で祝いの席を行うのが通例となって久しくなりましたが昨今の状況を見て今回は延期といたします。
ですが何かやらねばそれはそれで退屈と言うものであるかと考え、皆様に祝いものを選んで送ってもらうという事を考えました。
そしてそれらの祝いものを飲みながら全員で12日の日本代表対サンウルフズ戦をオンラインで楽しむイベントを企画します。
つきましては以下の条件の下、お祝いの品を選んで6月12日正午までに当方へ送付いただければ幸いです。
・祝いものはご当地の酒と肴&転居先で使えるものの組み合わせにすること
・予算は一万円程度(送料はこちらで負担します)
・冷蔵冷凍品生酒可、日持ちしない生鮮品や金券/カタログギフトは不可
・酒やつまみの種類と量は上の不可条件にはまらなければ不問
住所は(個人情報保護のため省略)です。
皆様からの祝いの品をお待ちしております 拝具』
・サンゴリアスさんとブレイブルーパスさんの場合
「普通さあ、祝いの品って相手への好意で送るものだよな?」
「暇だったんじゃない?」
地元のショッピングモールで先輩と遭遇した俺は小さくため息が漏れた。
伊勢丹が潰れてさえいなければもっと手早く決められた思うけれどなくなったものはしょうがないので、駅前のアートマンを見て回る羽目になる。
「酒はどうせ自社の酒だろ?」
「とりあえずウィスキーとジンを一本づつとチョコレートボックスまでは決めてるんだけど、あとグラスでも送ろうかと思って」
「それでアートマンね」
「先輩は?」
「国府鶴と地ビール、あと新しいハードディスクまでは決まったけどつまみどうするかなって」
「試合録画してるとハードディスクすぐ埋まるもんね」
「なあ、このグラスよくないか?」
先輩が見つけたのは薄口のグラスセット。酒を飲むのに使えるし予算的にもちょうどいい。
ワイルドナイツはこういうの持って無かったと思うので引っ越し先でも酒を飲むのに使えるだろう。
「そうだ、俺が甲府鶴に合うつまみを作って先輩の名義で送れば良いんじゃない?」
「天才の発想か?」
そうと決まれば善は急げ。
グラスを買ったらよく合うつまみを作って送ってやらなくちゃ。
・レッドドルフィンズくんの場合
困った。実に困った。
ワイルドナイツさんからの突然のメールの内容に、俺はシンプルに困惑した。
まだ付き合いの浅い相手に送る祝いの品の王道と言えば金券やカタログギフトだろうにそれを封じられているのだ。
引っ越し先にあると便利なものって何だろう、と考えていたその時だった。
「……ブルーベリーの木?」
ブルーベリーは地域の特産であり健康食品である。それに紅葉して美しい。
氷砂糖とホワイトリカーで漬け込めば美味しいお酒にもなる。
「うん、そうしよう!ブルーベリーの苗木なら貰えるあてもあるし何よりブルーベリーはあって困らないし!」
「息子ぉ!!!!!!」
近くにいた親に全力で止められた。
・コベルコスティーラーズの場合
「神戸の酒と言うたらやっぱ日本酒よなあ」
灘五郷ワンカップ30本詰め合わせセットに明石だこの瓶詰をセットで箱に詰めてガムテープで封をする。
色々詰め過ぎたのでちょっと重くなったがご愛敬だ。
「あと住所はーっと……あ、」
メールを見返していると引っ越し先で役立つものという一文に目が留まる。
そんなもん入れてへんわーとつぶやきながら、ふとあるものの存在を思い出す。
「ねーさーん、使ってへんソムリエナイフあるよなー?あれ人にあげてもええー?」
姐さんの部屋に呼び掛けるといいわよーと返事が来る。
いつだったか人に貰ったがずっと使ってるものと使い勝手が違うのでしまい込んでいたソムリエナイフ。
未使用のまましまい込んであった奴だしあげてしまっていいだろう。
「ま、ワイン飲む機会もあるやろうし隙間にこれ入れとこー」
ガムテープの一部を剥がして隙間にむぎゅっと押し込むともう一度封をし直した。