それはそれは深い溜息を一つ吐いて新聞を閉じる。
「朝からえらい深い溜息吐きはりますね、八幡さん」
「堺……あなたいっぺん殴りたいと思ったことはありますか?」
「ポスコさんの話ですか?」
「あんな恩知らずにさん付けしないでくださいヘドが出る」
しまった、韓国最大の製鉄企業に対する八幡の恨みの深さを忘れていた。
あの辺の因縁はあまり把握していないので深入りしないようにしているが、あの一年中寝惚けているような広畑が丑の刻参りをしてでも息の根を止めようとした相手なので恨みの買われ方がえぐい。
「じゃあ誰殴りたいんです?」
「中国ですよ、本当に鉄鋼減産する気あるんですかね」
その言葉になるほどと溜息を吐く。
不況に見舞われる鉄鋼業界ではその原因となっている中国による鉄鋼減産を望み続けてきた。
あの国ではあまたの製鉄所があり一度は不景気で高炉を止めたものの、今年に入ってから中国国内の景気が良くなってきたため再び生産を再開するゾンビ製鉄所が続出。
その鉄は中国国内にとどまらず世界の市場に放出されて世界の鉄の値段を下げ続けている。
「止めろ止めろとは言うても急に止まるものやないですからねえ」
「こっちは殴りたくて仕方ないですけどね」
「……高炉持ちの年長者やなくて良かった」
「今何か言いました?」
八幡に黙ってお茶を差し出せばずずっと勢いよく啜っていった。
堺の家に泊まりに来た八幡の話。
八幡とポスコの因縁はいずれ書きたい(書く機会があるのかは謎)