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コーギーとお昼寝

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ナイトウォーカー3

起き上がってみればそこはいつもの独身寮の角部屋だった。
背伸びをして壁の時計を見れば午前6時半過ぎを指している。
ゆっくりと起き上がって着替えて部屋を出れば初夏の晴天が広がっていて良い気分だ。
事務所にひょっこりと顔を出せば馴染みの事務員が神棚に枇杷を並べていて、私の存在に気付いた彼女が「枇杷要ります?」と尋ねてくる。
「いいですね、頂きます」
「どうぞ」
枇杷を受け取って給湯室に向かい、軽くすすいでから皮をむいて齧るとほんのりと甘酸っぱい初夏の味がする。
つい無心になって食べていたら貰ったものを食べ切っていて、手が汁で汚れていた。
(……少し品のない事をしてしまいましたね)
別に怒る人がいる訳でもないのについ辺りを見渡して確認してしまう。
例えるなら、道草して花の蜜を吸うようなちょっとした悪事をするあの気持ちだ。
手ぬぐいで手を軽くぬぐってから給湯室を出ると、先ほどの彼女が「気に入っていただけて良かったです」と小さく耳打ちをした。

****

今では出入り禁止になった本館の鍵を開けて、のんびりと中を巡っていく。
現在は旧本館と呼ばれて近くの眺望スペースから眺める事しかできない場所ではあるが、私は例外的にここの出入りが自由に許されているので時々こうして中を覗きに行く。
建物の煉瓦たちが私を歓迎しているのが何となくわかる。言葉ではない無意識に発される感情を受け取ったとでも言おうか。
釜石も今は世界遺産になった大橋高炉に行くと歓迎されている心地になると言うので私特有の事象ではないのは確かだ。
「ここだ」
私と釜石が共同で使っていた部屋はその後建物の機能移転に伴って用途が何度となく変わって今はがらんどうになっていて、私が過ごしていた頃の名残はほとんどない。
部屋に足を踏み入れて、ぐるりと部屋を回る。
ふいに私のベッドが置かれていた場所の壁にへこみを見つけて、思わずその手で触れていた。




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