ああこれは駄目だな、と思いながらクーラーの効いた事務室の床にへたり込む。
「戸畑?」
「……八幡さん」
八幡さんの深い黒の瞳が私を覗き込んだ。
遠い異国の絵本に出てくる王子様のようなその真剣なまなざしで私の身体を寄せて、ソファーに寝かせると職員に経口補水液を取りに行かせる。
「作業着脱げます?」
「はい」
緩慢な動きで長袖の作業着の脱げばクーラーの風がひやりと汗まみれの身体を冷ました。
職員の持って来た経口補水液が甘く喉を通り抜け、やはり暑さに当たりかけていたらしいと気づく、本来経口補水液というのはそんなに美味しいものではないから体調の指標になるのだ。
人ではない私たちもあまり暑さに当たり続けると体調を崩すから気をつけろと言われていたのにまた暑気あたりを起こしかけていたらしい。
扇風機やうちわまで持ち出して私の身体を冷やしにかかる職員の横で八幡さんは呆れたように私を見た。
「あなたまで調子を崩してどうするんですか」
「すいません」
「……今日はゆっくり休んでなさい、あなたの仕事は私と小倉が片付けますから」
「八幡さんも釜石さん以外の人にも優しくすることあるんですね」
ぽつりとそんな台詞が漏れる。
ずっと小さな時から、八幡さんは憧れだったけれど釜石さん以外に興味がないことを知っていた。
(こんなの、あてつけだ)
私達も見て欲しいという、ただの当てつけ。
八幡さんがいなければ今の私はいなかったというのに、それ以上のものを求めても仕方がないというのに私は何を言っているのか。
「私もたまには優しくしますよ」
「たまには、だから嫌われたり呪われるんですよ」
「誰がですか」
ああ、やっぱりこの人は綺麗で傲慢だな。
その問いに答えるのは止めて私は黙って目を閉じて休息をとることに決めた。
戸畑と八幡。