ぐずぐずと悪い天候が記憶の奥で泣き叫ぶ。 「・・・・・結城、そっちに行っていいか」 「遠慮します。またあの日のことを思い出したんですか?」 「そうだよ、消えてくれねぇんだ」 頭の中で浮かんでは消える慰めの声。 同時に流れるクラシックの悲惨なこと! Ein Jüngling liebt ein Mädchen, (ある若者が娘に恋をしたが、) Die hat einen andern erwählt; (その娘は別の男を選んだ。) Der andre liebt eine andre, (だがその男は別の娘を愛し、) Und hat sich mit dieser vermählt. (結婚してしまった。) 止めに行くべきだろうか、と一度思うがどうしようもないと思い諦める。 「あなたもまぁ大きな思い出を背負ってしまったものですね、気持ちは分からなくもありませんが。」 「そうだよ、とりあえず今から酒もってそっち行くわ」 失恋を未だに引きずる三十路に呆れつつも、ぼんやりとつづきに耳を傾ける。 Das Mädchen nimmt aus Ärger (件の娘は腹を立て) Den ersten besten Mann, (手近な男を選んだ) Der ihr in den Weg gelaufen; (そいつはばったり出くわしただけの男だ。) Der Jüngling ist übel dran. (あの若者の惨めなこと。) 「まったく・・・・いい加減止めて欲しいところですね。」 この曲の若者に比べればまともな失恋だと言うのに、と呟きながらもつまみの準備を始めた。