冬が、来た。
冷たい風の中に季節外れのチューリップが咲いている。
「冬にチューリップが咲くって不思議だよねえ」
「特別な加工を施してあるらしいよ」
水戸殿と兄上は寒い手を缶コーヒーで温めながら、静かに咲く花を見ていた。
その目は穏やかで、でもどこか微熱をはらんでいた。
冬の風でも冷ますことのできないその熱の名前を知らないほど自分は子どもでもない。
「……少し、海を見てきます」
「いってらー」
レンタサイクルに跨って数分。
季節外れの見晴らしの丘に登り、海からの風を吸い込む。
(あれを恋と呼ぶのでしょうか)
まだ、分からない事ばかり。