東京・皇居前
「……なに、取手」
『いえ、ちょっと漬物が余ったのでお裾分けしようと思ったらいなかったので』
皇居のお濠を泳ぐ牛久沼のハクチョウたちを尻目に、淡々と会話が続く。
やっぱりどうしようもなく東京の空気は肌に合わない。
「漬物って奈良漬?」
『自宅で奈良漬作れるような技術持ってませんよ』
「取手八坂神社と奈良漬でしょ、地元名物」
返事の代わりにガツン、と電話越しに何かの音がする。
たぶん取手がうちのドアを蹴り飛ばした音だ。
『どうですか、そっちは』
「暑い」
『今日は晴れるそうですよ』
「……夕方、牛久の家行くからその時に」
『ええ」
牛久沼から皇居に引っ越した白鳥の話が何故かこんなことになった。