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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

楕円球の帰る日

秋雨に濡れるスタジアムには独特の空気感が満ちていて、ようやく日常が帰ってきたのだと思う。
「シーウェイブスさんは試合、いつぶりでしたっけ?」
「あーっと……今年最初か?」
「僕も3月以来ですから、6ヶ月ぶりですね」
ジュビロの方もコロナによりいつもより伸びたオフシーズンの終わりを、ずっとずっと待ちわびていたのだとわかる。
スタジアムもソーシャルディスタンス確保のため入場制限がかけられ、いつもよりも空白感がある。
しかしこの天気と状況を思えば十分な客入りのようにも思えた。
「お客さんがいて、選手もいて、もうこれだけで十分です」
泣きそうな気持ちでスタジアムを見つめるジュビロに「ほれ」と一杯の酒を譲る。
つまみもあるぞと手渡せば「昼酒ですか?」と言い出してくる。
「せっかく久しぶりの試合なんだ、思い切り楽しんでもいいんじゃないのか?」
「……ですね。じゃあご相伴に」
ワンカップを受け取って蓋を開けると、シーウェイブスさんスッとワンカップをこちらに寄越す。
「ラグビーのある日々の帰還に祝杯を、」
「釜石の街に

「乾杯!」」

カチンと言う軽やかな瓶の音と同時に、ずっと待ちわびていたキックオフの笛がスタジアムいっぱい響わたった。


ーーー
シーウェイブスとジュビロ。
おかえりラグビーのある日々!

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ハンバーガーと満月

いま、無性にジャンクなものが食いたい。
走り込みを終えてふいに沸き上がったのはそんな衝動が今日はいつもより強かった。
だからいま、僕の前には月見バーガーや月見パイ、マックフィズが並んでいる。
(……まあ、たまにはいいよね)
チームインスタ用にカノンちゃんのぬいぐるみを月見パイの横に置き、数枚の写真を撮って簡単な編集だけしてインスタにあげる。
「うん、これは仕事用だし運動後だからヨシ!いただきます!」
ダイエット中のOLみたいな言い訳をしながら思い切り月見バーガーにかぶりつくと、卵とソースがトロリと溶けてくる。
特別ハンバーガーが好きという訳じゃないけれど、いま体が欲していたジャンクさが全身に染みわたる。
なんだかんだ脂肪と炭水化物にあらがえないのだ。
口の端についたソースを舐めながら見上げた空には真昼の満月。
この後も頑張らなきゃなあ、と呟きながら僕は月見バーガーにかぶりつくのだった。



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イーグルスさんのごはん。
インスタでカノンちゃんが月見パイ食べてたので。

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夏のリヨンからのお荷物です

春先から続く病気の流行によるマスク焼けだけでなく、夏の湿気と暑さでやられている今日この頃。
小さな段ボールが遠く異国から届いてきた。
送り先はフランス・リヨン。
箱の中身はワインやチーズに、あちらの名物だと言う鶏のレバーケーキやピスタチオ入りのソーセージがぎっしりと詰め込まれている。
買い置きの冷凍食パンを焼き、その間にソーセージを茹でて切ったりチーズを準備したり、貰い物の冷製スープも出して簡単な夕食を揃えてみればいつもより豪華に見える。
……いや、普段から粗食すぎるとスピアーズに叱られていることを思えばいつもが質素すぎるのだろうか。
焼いたパンにクリームチーズを乗せて食べてみれば、さくりとした食感にハーブやニンニクの風味が広がって美味しい。
ソーセージも薄めに切って口に放り込むと肉の脂っ気にナッツの食感が面白い。
この時間なら大丈夫だろうかと時間だけ見てから、インターネット回線で送り主への電話を繋ぐ。
液晶画面には薄い色のサングラスをかけた狼耳の男性が朝の景色を背景に映ってくる。
『オハヨウ!シャイニングアークス、comment allez-vous?(調子はどう?)』
フランス語で話しかけられた瞬間に意識がフランス語に切り替わる。
「もうこっちは夜ですけどね、Louさん」
荷物の送り主であるリヨンloさんとは最近意気投合して色々やるようになった。
『じゃあコンバンワだね、荷物は届いた?』
「はい。有り難く頂いてますよ」
カメラの前に差し出してくると『そりゃあよかった』と笑う。
『気に入ったものがあったら教えておくれ、この病気の流行が落ち着いてリヨンに来たらもっと旨いものを準備しておくよ』
サングラスのせいで表情は読みづらいが声色から感情は読める。喜ばしい感情が声色から滲んでいる。
「僕の方も準備しておきますよ、お酒なんてどうです?」
『くれるのか?なら日本酒がいいな』
「ええ、日本酒とそれに合うものお届けしますよ」
元々はビジネスで知り合った仲だが、こうして良い関係を築くきっかけになるならお安いものだ。
縁は異なもの味なもの、こう言う縁も楽しむのが吉だろう。




ーーー
シャイニングアークスとリヨンou
そのうち海外リーグ組が増えそうなのでちまちました習作を。

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もしもは幾らも言えるだろう

「ああ、今日はあの玉音放送の日でしたか」
八幡さんはポツリとカレンダーを見て呟いた。
いつもこの人は終戦記念日を『あの玉音放送の日』と呼ぶ。
終戦・敗戦と呼ばないのはこのひとの持つささやかな抵抗であることを、私は知っている。
「そうですよ、この頃はバタついててすっかり忘れていましたが」
「仕事による多忙はいいですけど病気だ不景気だのによる多忙はろくなもんじゃないですね」
冷たい麦茶を飲みながら酷暑で火照る体を冷まし、壁に架けられたカレンダーを見ながら私たちはしばし黙した。
私たちはあの焼け跡になったこの町の景色をを覚えている、そしてそこから立ち直った人々のこともはっきり覚えている。
今はもう記憶する者も少なくなった日々の記憶は薄まる事なく残されている。
「もしも、もしもですよ?もう少し耐え忍ぶ事が出来たのなら私たちは屈辱もなく生き延びられたと思いませんか」
「……それ、いつもおっしゃいますよね」
「そうでなければ私のあの努力の日々どころか、釜石や室蘭の負った傷までも無意味だった事になるじゃありませんか」
現代的倫理観に照らせばアウトな発言だが、どうせ私以外に聞く者のない言葉だ。私の胸の内にしまい込めばいい。
「でも、もうあれから70年以上過ぎたんですよ」
「許せと?」
「もう時効です、あの日々に関わった人はほとんど死んだんです」
私たちにとっての70年と人間にとっての70年には雲泥の差がある。
その事実から逃げるように八幡さんは恨み言を吐く。当事者を密かに呪う。
私は八幡さんの怒りと呪いを永遠に鎮める事が出来ないと分かっているので、ただその言葉を受け止めるのみなのだ。



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戸畑と八幡の終戦記念日。

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おかねがない

このところ八幡さんがずっと地元にいる。
出張という出張が昨今の流行り病によりすべて中止となり、いつもなら東京と北九州を往復してるひとがずっといるのだ。
「あー……」
ゾンビのようなため息を漏らし鬱々とした様子の八幡さんに小倉さんが『どうすんだあれ』という顔で私を見た。
再び八幡さんの様子を見るが、八幡さんは鬱々とした雰囲気を隠さないのであれは相当やられている。
私はどうにもならないですねと首を振った。
「戸畑、お茶ください」
「あ、はい」
小倉さんと一緒に給湯室に行き、冷蔵庫に入れておいた水出し緑茶をグラスになみなみと注ぐ。
私が水出しのお茶を渡すと小倉さんは京浜さんから頂いたというありあけハーバーの箱を開けてくれた。
「あんなのがずっといたら職場の士気に関わるんじゃないか」
「重症ですしね」
いつもはいない人がいるという事に対する違和感はもう慣れた。
しかし問題はずっと釜石さんに会えていないという事に対する鬱屈がすごすぎて、周りが引きずり込まれそうになるのだ。
「簀巻きにして玄界灘にぶち込みたい」
そうぼやきながら水出し緑茶をもう一杯飲もうと冷蔵庫を開ける小倉さんに「とりあえずむこう戻りますね」と告げて給湯室を出た。
「戸畑、」「はい」
水出しの緑茶を差し出すとパソコンの画面には本社から送られた四半期決算や今期営業利益の見通しに関する書類だった。
流行り病のあおりを受けて大幅に収益が落ちた決算俵はどこもかしこも真赤だ。

「……そっちだったんですね」

「戸畑、今のどういう意味ですか」
「いえ」
どうも北九州にいる時は頻繁に釜石さんの話をするせいで忘れかけていたが、この人もちゃんと仕事はするのである。


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戸畑と八幡と小倉。
苦境の鉄鋼業、マジがんばれ……

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