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コーギーとお昼寝

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煙草の煙と消えていく

急に書きたくなって日石×出光習作



その男はかつて覇者であった。しかし今はもうその面影も薄い。
「お邪魔します」
「久しぶりだなあ、出光」
着流しに着せるという今では時代遅れな装いにろくろく手入れもされていない状態の男はかつて日本石油と呼ばれた日本屈指の石油会社であった事を知るものも今ではずいぶん少なくなった。
今では日本海の見えるこの小さな町の切妻屋根の古い家にこもりがちで時々観光客相手にかつてこの街にあった油田の話をして暮らしていると聞いていたが、この様子では本当に気まぐれにしか外に出ていないように思えた。
「あいっっかわらずちびだなあ」
「……余計なお世話ですよ」
キッと睨みつけると悪いなと言って笑った。
仕事の全部をほかの奴らに丸投げして、こんなところで暮らしていて退屈じゃないのだろうか。
「昭和シェルと喧嘩でもしたか」
「まさか」
「そうかい、まあそれにしても相変わらず大暴れしてるようで」
「……暴れてはおらんでしょう」
ふらりと起き上がると冷蔵庫から凍った笹団子が出てきて、レンジに突っ込んで解凍される。
ついでに作り置きしてるらしい水出しの麦茶と少し端の欠けた湯呑がぼんと並べられた。
「雑なもてなしなことで」
「この家に客人なんてめったに無いからな」
解凍された笹団子が並べられ、そのうち一つをいそいそと日石自身が食べ始める。そう言えば笹団子はこの男の好物の一つだった。
それはともかく、ほかほかの笹団子に口をつければ甘辛いきんぴらをくるんだ餅の味が広がった。
「お前、きんぴらの笹団子食うのは久しぶりだろう」
「ええ」
「お前が門司にいた頃はよく食わせてやったのになあ」
「俺が門司にいた頃のあんたは世界一カッコいい男だった」
「そうだな。いつからだったっけ?お前が一緒にお茶飲んでくれなくなったのは」
「……帝石なんかと一緒になってからですよ、これを食わなくなったのは」
「そうだったか?」
「ええ」
国内の油田の衰退とともにあの頃の輝きを失い、外資に首を垂れてでも生きることを選んだこの男をあの時は軽蔑すらした。そして結局は大財閥に吸収されてこのざまだ。
「あんた、つまらなくないんですか」
「……国産石油の終焉と同時に俺は死んだんだ、今はいつか来る死を待つ余生に過ぎない」
全てを諦めたような顔をして男は笑って煙草を一口吸った。
その笑顔はこの新潟の空に吸い込まれる煙草の煙のようにさみしい。

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