タイトル通りのトンチキofトンチキな代物。
存在するかもしれない未来の存在するかもしれない時間軸のお話です。
愛情を食べて生きる生きた人形、という都市伝説を信じていた訳じゃない。
ただ、此花が気まぐれに語った都市伝説の舞台に五年前にこの世界を去った釜石によく似た人形があると言ったから来ただけに過ぎない。
「ここが観用人形(プランツドール)の館、住友家が200年以上秘匿してきた場所だよ」
それは新居浜の郊外にある古い洋館であった。
館の中に入ると此花は歩きながら早口でプランツドールについて説明を始めた。
曰く、観用人形は黒魔術文化華やかりし東欧を起源に持つそうだ。江戸半ば頃に住友家の人間が出島に密かに持ち込まれたこの人形の作り方を買い取って新居浜に持ち込んで以降主に旧華族や成功者に愛されてきた。
相性のいい主だけがプランツドールの目覚めさせることが出来、一度目覚めれば愛情と温かなミルクで老いることなく命を繋ぎ主の命が尽きるまでその傍に寄り添って生きる。
「ここだ、入るよ」
ある部屋に足を止めた此花はなかに一声かけながら私を部屋に招いた。
そこは小さな子供ほどの少年少女の人形が眠り続ける薄暗い部屋で、その薄暗さと人形が異様なほどリアルなせいでどうにも気味悪さすら感じさせた。
私を埃臭いソファに座らせると、此花は踏み台を上って一つの人形を抱きかかえた。
「こいつだよ、プロトタイプのポプリドールだから薄く海の匂いがするだろう?」
確かにその人形は釜石によく似ていた。
短く切られた黒髪、日本人らしい面立ちに紺の着物を白の児子帯で縛っている。年頃は4つか5つほどだろう。私と出会う前の姿を写した人形と言われれば納得するほどであった。
その人形を腕に抱えると薄く海の匂いがした。
ぱちりと開いた眼は鉄色―青みが暗くにぶい青緑色のことだ―を纏っており、それだけが彼が人形であることを伝えていた。
「……起きてるか?」
此花がふいに人形に問いかけると、人形は小さく頷いた。
見れば見るほど釜石によく似ている。どんな声で話すのだろうか、と思わずワクワクした。
「うっそだろマジで起きやがった……」
「何か問題あるんですか?」
「プランツドールってむちゃくちゃ高価なんだぞ……」
「私への奉納品ってことにすればいいじゃないですか、ねえ?」
こくりと人形は頷いた。
私としては今すぐ連れて帰る気であったが、此花はむしろ深い溜息を洩らした。
「奉納品にしちゃ高すぎる……でも、くろがねは商品にならないプロトタイプだから廃棄寸前って話だったしな……」
「この子、くろがねって言うんですか?」
「持ち主のないプランツドールは瞳の色で呼ぶのが習わしなんだよ、こいつは目が鉄色だからくろがね。瞳の色は個体の固有色だから同じ色の瞳のプランツドールは世界に二つとないんだ」
「とりあえず、くろがねは私が貰っていきますね。代金は何とかしますよ」
「……もう勝手にしろ」
此花が顔を覆って深いため息を吐いた。
そのプランツドールは私の腕の中で無垢な瞳をさらしていた。
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続かない