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コーギーとお昼寝

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冷酒と涙を流し込む

やってられんから付き合え、と言うその手には紙袋一杯の酒瓶とお惣菜が詰まっていた。
「全部冷やで良いの?」
「きょう蒸し暑いし温めなくていいだろ、雪冷えがいいのなら冷蔵庫入れといてくれていいぞ」
割り箸を片手で割って冷やのワンカップとあじの南蛮漬けを食べ始める。
日が暮れ近くの薄暗くなりだした俺の部屋で早速酒を飲み始めるので持って来たものを確認する。
「日本酒はともかくチューハイとビールは冷たいほうが良いでしょ」
「チューハイ入れたっけ?」
「何本かある、チューハイ類は一応冷やしとくね」
手当たり買って来たのだろうさまざまな種類の酒が一緒くたに詰められており、冷やした方がよさそうなものだけを選んで冷蔵庫に詰める。
「俺もお酒貰うよ」
「仕事終わりで良いのか?」
「まだ少し余裕あるから」
日本酒の四合瓶を開けて漬物に箸を伸ばす。
こんな風になる理由は俺だって分かるし、その気持ちも概ね察せられたから口には出さない。
(……いつかは来る日だもんなあ)
新日鉄との合併のときからいつか社名から住友の字が消える日は来るだろうと薄々思っていたけれど、その日はずいぶんと早くに来てしまって一番悲しいのが此花なのだ。
俺だって住友への慕情は多少なりとも持ってるのだ。
早速ワンカップを飲み干した此花が小さな赤ワインのボトルに手を伸ばし、ローストビーフサラダを手前に寄せてまた飲み始める。
いくら酒に強いとはいえ随分とハイペースで飲んでいるのでこの酒もひょっとしたら全部飲み干してしまうのかもしれないし、最悪俺の買い置きの焼酎も飲んでしまうかもしれない。
「尼崎、」
「うん?」
「お前も私も、和歌山も鹿島も直江津も海南も小倉も、みんな住友の子だ。小倉は厳密には違うけど和歌山を育てたのはあいつだからうちの人間だ」
「うん」
「その誇りだけは、せめて住友金属の名を覚えてる奴がいるうちは、守れると思ってた」
俺は何も言い返さない。
飲んだくれてその悲しさも苦しさもその腹の奥で溶かしてしまうまで、付き合うつもりでいた。
「……ごめんな」
此花は顔を伏せたまま絞り出すようにそう言った。
「謝らなくていいよ」
「いや、謝らせてくれ」
「此花は一つも悪くないんだし、合併時の代表権は和歌山が持ってたじゃない」
「あー……そういやそうか」
「そうすることでしか俺たちが生きていけないのなら、そうやって生きていくよ。住金のみんなでなら地獄の果てに行ってもいい」
アルコールで緩んだ口から随分とクサい台詞が漏れた。でもそれは嘘じゃない。
俺はみんなで生きていけるのならどういう運命でも生きていけた。此花や和歌山がいて、鹿島や小倉や海南がいるのならどんな苛烈さにも耐えられる。
「そうか、」
「そうだよ、今夜はとことん飲もう。この地獄を生き抜くために」
「……だな」
此花の表情が僅かに緩んだ。
これだ、これが俺の一番好きな姉の顔だ。



此花と尼崎のはなし

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