金曜日の東京のオフィス街はもうすぐ日の入りを迎えようとしていた。
ずっとじっとりしていた東京からようやく地元に戻れる、と考えていた矢先の事である。
「釜石、帰りの新幹線いつですか」
「17時56分発だな」
「もう帰るんですか?!夕飯も食べずに?」
これはめんどくさい奴だな、と何となく察した。
もしかすると事前に店でも予約していたのかもしれない。
「釜石」「うん?」
八幡が財布の中身を確認すると「新幹線を日曜の夜にしてくれませんか、お金は私が出すので」と言い出した。
「日曜日は試合があるんで無理だな」
ちょうど日曜日はシーウェイブスとジュビロ……今はレヴズか、その二人の試合がある。
金曜の夜に戻るつもりだったのは試合を見に行くためだったので日曜夜は絶対に嫌だ、それだと現地観戦が出来なくなる。
「それなら日曜の朝で」
八幡の目があまりにも本気だったのでここが妥協点だろうと察した。
「分かった、確か郵便物あったよな?そのついでに駅で払い戻してくる」
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土曜日は八幡の行きたいところを回った。
美術館や都内の神社を回り、最近話題だという店に行き、百貨店で戸畑に頼まれたというお菓子を送った。
久し振りの東京は賑やかでみなマスクはつけているが楽しそうに見えた。
「二人でたっぷり一日遊んだの久しぶりですよね」
今日は十五夜で、しかも満月。
せっかくの月夜を楽しむため間接照明だけつけた薄暗い部屋は妙に広々としている。
百貨店で購入した地酒のワンカップとつまみを手に「お前が駄々こねた癖に」と言ってみる。
まあ最近は都内を一人で歩くなど全然していなかったし、何より八幡が楽しそうだったので文句もない。
「いいじゃないですか」
こう薄暗いと八幡の目鼻立ちの良さが際立ち、日本酒の芳醇な香りがその吐息に混ざって届く。
「もうずいぶんデート出来ずにいましたしね」
「デートなのか?」
「惚れた相手と一緒に遊ぶんだからデートですよ、好きでもないひとと二人で出かけたりしないでしょう?」
「まあそれもそうだなあ」
まっすぐな愛が指の先からその声色まで余すことなく滲んでおり、しかもそれがすべてこちらに向けられているのが分かる。
こういう時、本当にこいつは自分が好きだと思い知らされるのだ。
(まあそれを拒む気が無いんだからどうかしてるんだろうがなあ)
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八幡×釜石のいちゃいちゃ。