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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

晴天、秋の頭にて。

「開幕二連敗なんやて?」
『……それは俺への嫌味と捉えていいのか?』
電話越しに少しばかりの不機嫌の色を漏らした80年代の王者に「まさか、」と答える。
昨日のひどいスコアでの負け方についてはネットで確認しているが、まだ少し引きずっているのかもしれない。
「ただの電話越しの陣中お見舞いやて」
『そっちだってまだシーズン中の癖に何を言うんだか』
「ははっ、気に障ったんならごめんな?」
『別に』
「ならええわ、こちとらもう20年近く待たされてることを忘れんでくれな?」
『……分かってる』
ぼそりと低い声で漏らした。
大丈夫、まだこの男の心の火は消えてない。
どれだけ時間がかかっても、ここまで会いに来てくれるという覚悟が声に混ざっている。
「ノエビアの芝の上で逢おう」
そう告げると『おう』と告げて電話が途切れる。



(ほな、あいつが来るまでここに残っとらんとなァ)


スティーラーズさんとシーウェイブズさん。
昨日の初観戦で脳裏に残っている感想はまあ色々あるんですが、とりあえずの感想代わりに。

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堕ちる太陽と消えない月

どうせ福岡まで来たのだし、久し振りに会ってやろうかと思ったのだ。
市営の運動場の片隅で彼はあの頃よりも少しだけ暗くなった瞳でボールを磨いていた。
こっそりとその中に忍び込んで意外によく整備された芝生の上に腰を下ろした。
「生きとったんやなあ」
「第一声がそれですか」
ボールを磨く手は止まることもなく、視線もこっちに移すことはない。
少し前に世界遺産にまでなった官営製鉄所の名を冠する彼の瞳の深い黒を、何度敗北の悲しみで染めてやりたいと思った事だろう。
「下位リーグなんて見てられひんからなあ、神戸んとこのと違って俺は忙しゅうてあかんのや」
神戸はよく釜石に早くトップリーグへ帰ってきて欲しいと嘆いている、その気持ちは正直さっぱりわからない。
こいつにに帰って来いと言ったことは無いし、もし奇跡的に昇格してきたってあの頃のあいつは永遠に帰ってこない。
「その割にはよくこんなとこまで一人で来れましたね」
「……今どきはネットでちゃちゃっと調べられるからなあ」
二つ目のボールを磨きにかかるが、それでも視線はこっちを見ない。
それでいいのだ。
今はもう水平線の向こうに沈んだ太陽でしかないこいつに、今も1部リーグにかじりつく自分は眩しいのだということを分かっている。
あの頃、日本が天井知らずの成長を走り抜けていたあの時代に競い合っていた。
誰よりも勝ちたかったあの背中は半世紀もの月日の中に溶けて消えたまま、その光は弟分が継いだけれど彼もまた神戸から伝え聞く限りまだまだのようだ。
「せいぜい2部リーグに落ちない程度の努力はしたらどうです?随分1位と勝ち点差ついてるみたいですけど」
「あれはあいつの実力からしたら順当やろ、それに俺が2部に落ちるならあんたもこんなとこに燻っとらんで2部に来てもっぺんやったろや。そん時は完膚なきまでに負かしたる」
そう告げるとボールの尖った方で思い切りみぞおちを殴られた。
石炭の黒さに似た目に映るのは、怒りと闘志だ。
「……闘志がまだ消えてへんならええ」
そう笑うと、なんとも不愉快そうにこちらをにらんで「早よ大阪帰れ」と呟いた。




ライナーズさんと鞘ヶ谷。

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夜雨の博多にて

「本降りですネ……」
窓の外を見て呟いた後輩の一言で、小雨だった雨が本降りになっていたことに気付いた。
「こげん雨やとうちば戻るんも面倒っちゃ」
「2人とも泊って行けばいいですヨ」
「いや、俺はいいよ。後輩の家に泊めてもらうのは性に合わないし折りたたみ傘あるから」
鞄から引っぱり出した折り畳み傘を見せてやると、二人の後輩はそれでもというように泊るようせがんでくる。
軽く酒が入ってることもありぐずぐず言う後輩たちに「この話は終わり」と宣言すると、ちょっとだけ納得いかない顔をしつつもそこまで言うのならばと送り出してもらえた。
本降りの夜は思ったよりも冷え込んでいて、酔いがどんどん抜けていく。
「……サヤ?」
「香椎さん、いや、今はキューデンヴォルテクスでしたっけ」
「どっちでもいいよ」
黒髪の下から覗く紺と橙の混ざり合った瞳は、自分にとって最初の後輩のものだった。
サヤこと新日鉄住金八幡ラグビー部は、この雨に降られたらしく全身ずぶ濡れで濡れネズミと呼ぶに相応しい有様だった。
思わず鞄に入れていたタオルを差し出すと黙って受け取ってきた。
「博多にいるなんて珍しいな」
「八幡さんの代理です」
北九州を代表する彼の親会社(正確には製鐵所か)の名前を挙げると納得してしまう。
俺たちは親会社が無ければ生きてゆけない。彼らに金銭的に支えられることでこの命脈を保っている。だから俺たちは彼らの仕事を手伝うのが日常となっている。
「これから帰りって時に雨に降られたってところか」
「まあ、そんなとこです」
「傘貸してやろうか?」
「別に平気です、雨が止むまで待つぐらい」
「駄目だ、この調子じゃ一晩中降ってもおかしくない」
「人間じゃあるまいし一晩ここで過ごしても風邪は引きませんよ」
いつからか彼の発言はひどく暗くなった。
ブルーマーズの暗さはまだ自虐の範疇なのだが、サヤのは聞いていてどこか痛々しく響くのだ。
「八幡さんが泣くぞ」
「あの人は私のためには泣きませんよ」
「しゃあしいぞサヤ、黙って駅まで送らせろ」
傘を押し付けてから鞄に入れてあった防水の上着を羽織ってその手を掴む。
どれだけひどい雨が降ろうとも、雨具ぐらいならいくらだって貸してやれるのだから。







キューデンさんと八幡さんとこの子。
ちなみにサヤという呼び名は練習拠点の鞘ヶ谷から貰いました。そのまま。

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墓前語り

「墓参り行くわよ」
「はい?」
俺の母親分・姉貴分に当たる神戸製鋼神戸製鉄所は人んちに押しかけての第一声がそれだった。
「いや、そないな事言われてもさっき北海道から帰ってきたばかりやしトップリーグ開幕に向けた準備が……」
「新盆なんだから行くわよ」
「いや、新盆って誰の……ああ、あの人か」
思いだしたのは昨年10月に惜しまれながらこの世を去った往年の名選手。
80年代から90年代の己の、いや日本ラグビー界の黄金期をけん引した多くの名選手たちのうちの一人として今も多くの人々の記憶に名を遺しているであろうその人であった。
「そういう事、行くわよ」
「まあそれならしゃあないですね」

****

墓地の前には早くに世を去った彼を忍んでの見舞いの品が多く並んでいる。
緑の線香に火をともし、ワンカップを墓石に注ぎかけ、菊の花とまんじゅうを一つを墓前に飾る。
「……そういや、憶えてます?」
「なにを?」
「神戸製鋼ラグビー部7連覇の時の祝勝会」
そう告げると彼女はしばし考え込んでから「何かまずいこと言った?」と尋ねてきた。
「まずい事、かどうかは分かりません。でも俺の記憶してる限りやと祝勝会で泥酔したあとあの人に向かうて『あなたが死んだら私の婿として転生させて練習場の守り神として身近に置く』って言うてましたね」
「……覚えてない」
愕然としたようにこちらを見てくる。
釜石のじー様やその一番弟子の話を聞く限り、彼女が記憶を失うほど泥酔することはほぼ無いらしいが俺が記憶してるだけで3度泥酔している。
「じゃあ、あれは覚えてます?全国社会人大会の新日鉄釜石8連覇が阻止した日の夜」
「……釜石と呑んだことは覚えてるわね、それであの子抱きかかえてものすごい荒れてた」
それ以降の記憶はやはり無いらしい。
まああっても困るか、という気もするがせっかくなのであの夜の事を引きずり出そう。

―1985年(昭和60年)―
「神戸、助けてくれ」
準決勝でノーサイド直前の勝ち越しで勝利を遂げ、トヨタとの決戦に向けてさあ寝ようと考えていた矢先の電話だった。
「助けてくれって何があったん」
「お前んところの親会社が泥酔してうちの親父と暴れてる」
電話越しに聞えてくるのは怒号とも悲鳴とも分からない口論の声。
「あんたたちの併合の時誰が巻き添え食ったと思ってる訳?!救済合併とか言われてたくせに!」
「それは今関係ないじゃろうが!今回はわしの痛飲に付き合うだけじゃったんじゃないんか?」
なんというか、これは相当酔ってる。たぶん誰にも手が付けられない部類のアレである。
まして電話の主である新日鉄釜石ラグビー部という存在は女性に慣れていないので泥酔した神戸を留めるなんて出来る事じゃない。
「……今行くわ」
そうして指定された場所まで迎えに行ったのだが。
目の前に広がっていたのは、釜石のじーさまにジャイアントスイングぶちかます神戸であった。
なお、電話を寄越した方の釜石はどうしたらいいのか分からないという顔で俺を見ていた。真鍮はまあ察して欲しい。
結局神戸本人が飽きるまでジャイアントスイングを続けさせた後、呑み足りないと騒ぐ神戸を強制的に布団に寝かせたのであった。

「……っていう地獄の沙汰が」
「え、まさか釜石が一時期私に酒を飲ませなかったのって……」
「間違いなく原因それやろな」
「我ながら引くわね」
墓前で頭を抱え始めているがこんな話あの人に聞かせて良いのだろうか。というかこれ自体あの人が入社する前の話である。
「まあでも一番ひどかったんは初優勝ん時ですけどね」
「待って私そんなにひどいことした?」
「どっかからビール持ち出して俺にビールぶちまけたのが東芝の神経逆なでしたのを見てサントリーが飲み比べで雌雄を決しようと言い出して、呑み比べおっぱじめたあげく全員企業勢全員泥酔したのとか」
ノーサイドの精神とはいったい何だったのか、と若干疑問を感じたことを覚えている。
まあ初優勝の酒は美味かったのだが、一番悲惨だったのは呑み比べで泥酔した面々が吐いたものを妙な悲しみと沈黙に包まれながら俺たちで処理したことぐらいであろうか。
あの時最大の被害者は間違いなく俺と東芝府中である。
「……その翌朝人生最悪クラスの二日酔いに見舞われたのは覚えてる」
「そりゃあ良かった。俺は今だに逢うたら菓子折りでも渡したい気持ちんなります」
後にオオカミを名乗ることになる男のあの死んだような目と、野武士と呼ばれた男の憐みの視線は忘れようのない記憶である。
「そうするわ」
「是非そうしたって下さい」
「……でも、あれからもう何年経ったのかしらね」
「もう20年は経ちますよ」
「優勝から少し遠ざかっちゃったわねえ」
「当てこすりですか?」
「ぼちぼちトップリーグの優勝が見たいわね」
「負けたくて試合するわけやないですからね、最後の笛まであきらめずに粘れば逆転かてあるんですから」
「91年の社会人大会決勝みたいな?」
「ええ」





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網走の夜と海

長い間そこに在り続ければ変わる事や消えていくこともあるという事実を、誰が否定できよう。
「こんな海辺で晩酌かいな、サントリーサンゴリアス」
「……ええ」
神戸の名を背負うその人からは珍しく煙草の匂いがした。
煙草が健康に良いという常識はいつの間にか消えさり、今やスポーツマンは喫煙をしなくなった。
しかし戦前生まれの彼だけは時折こうして煙草を嗜んでいるようであった。
「響か、俺にも少し分けてくれひんか?」
「どうぞ」
自社の誇るジャパニーズウィスキーの最高峰とも称されるそれを小さなグラスにストレートで出してやれば、彼は一口それを口に含む。
「美味い」
「そりゃあ、ジャパニーズウィスキーの最高峰ですから」
自らの親と呼ぶべき存在の生み出した至高の酒だ、不味いはずがない。
「で、ご用件は?」
「ただの夕涼み、どっかの赤い鷲みたいに極端に嫌う奴もおるからいまや気軽に煙草も呑めんしなあ」
呑気にそう呟きながらふうっと煙を吐きだした。
「ああ……でもあいつは悪い奴じゃないんですよ?先輩のことをよく敬うし頭も悪くない」
「でも隙あらば胸筋や腹筋揉みたがるのはアカンやろ」
同じ府中の後輩へのフォローが台無しである。
あの後輩の悪癖だけは同じ府中の青い狼と共通の悩みであった。
「……今シーズン、誰に昇格してきて欲しい?」
「下なんか見てるとそのうち自分が落ちますよ」
こんな脈絡のない会話も、たぶん8月が来るまでのことなのだろう。




サンゴリさんとスティーラーズさん。特に内容はない。

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