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コーギーとお昼寝

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イーハトーブの海と春

全国各地では桜の便りが随分と早く届いているというが、この南三陸は釜石の地に桜の気配はまだほど遠い。
「今年はずいぶん入ったなあ」
新加入選手情報を見ながらそう呟くと、シーウェイブスが淹れたてのコーヒーを出してくれる。
「今年はごっそり抜けましたからね」
「まあそうなんだがな」
この季節の楽しみである新しい選手の情報を眺めながら、シーウェイブスと一緒に誰がどういう選手だという話にゆるりと花を咲かせる。
それはこの春という季節のささやかな楽しみでもあった。
「今年こそ降格争いしないで済むと良いんですけど」
ぽつりと漏らした弱音に、こつんと軽く頭を叩いてやる。
「まだ夏以降の予定も出てもいないのに弱気になるのは早すぎだろう」
「……まあ、そうですけどね」
近年の成績を思えばシーウェイブスの心持ちは、分からないでもない。
しかしあの沈んでいた町に優勝の二文字を持ってきたあの日を、更地となった街で凍えるような寒さの中をずっと自分たちの傍らにいてくれたあの日を、一度だって忘れたことはない。
「シーウェイブス、」
「はい?」

「お前はいつだってこの街に色んなものを呼んでくれる。若い選手たちとかたくさんの観客とかそう言うもんだけじゃない、新しい文化も喜びや繋がりみたいな目に見えないもんも。
だからお前はわしにとっちゃあ春の海なんだ」

凍える冬を超えた春の海は、色んなものを連れてくる。
温かな日差し、近隣から集った若き鉄の男たち、旬の魚や野菜たち。
あの日からこの子はまさにそんな春の海そのものであった。
「だからそんな寂しい事を言わんでくれ」
どうか、君は永遠に希望であってくれと願っている。

***

―それから数日後―
春は温かで優しい希望の季節だ。
入所式の片隅にそっと腰を下ろし、製鉄所関係者の後ろにじっと立つ釜石さんを見た。
新たに入ってきた若者たちを暖かく優しい眼差しで見つめている。
ふいに数日前に言われた言葉を思い出す。
『お前はわしにとっちゃあ春の海なんだ』
春の海という言葉は海の波を名に冠した自分にはぴったりのように思えた。
製鉄所で仕事をしながらラグビーに共に励むことになる若者たちに目を向けると、その目は艶やかな黒をしている。ただただ希望に満ちた質のいい石炭に似た汚れなき黒の瞳は新生活への希望を感じさせた。
いつか大木になるやもしれぬ未来の名選手たちを見ていると、少しだけ元気が湧いてきた。

(この若々しい苗木のような選手たちを信じよう。)

やることは最初からはっきりしているのだから、焦ることはない。
彼らが、いつかトップリーグの芝の上に連れていってくれる日を信じて走るだけだ。



釜石親子の春。そう言えばこの二人を書いていなかったので。

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切り分けたオレンジの半分

「ん、」
半分に割られた蜜柑を渡してやれば大人しくそれを受け取ってきた。
馴染みのない東京の夜更けを同じ部屋で過ごすのは何とも奇妙な気分であったが、お互い連れられてきたようなものなのだから仕方がない。
「おーきにな」
蜜柑をひと房摘まんだその男の横でもさもさと蜜柑を齧る。
薄皮の向こうからじわりと甘い果汁が滲んできて、するんと胃に落ちていく。
「んまい、」
「そうか」
「……昔は、兄弟でこういうの一緒に食ったりせんかった?」
「弟とはよくやってたな」
もさもさと蜜柑を食いながらしょうもない事を思い出してしまう。
上の兄の方とは特別仲が良かった訳ではなかったからこうして仲良しこよしなんてした記憶はあまりない。
「俺はようやってたなあ」
「ふうん、」
「『あなたは私のオレンジの片割れ』」
「は?」
「スペインのことわざ、うちの姐さんから教えて貰ろた奴。唯一無二の片割れを指す言葉らしいで」
「そうなのか」
海外のことわざを教える辺りあの神戸の街のお嬢様らしいという気がする、うちの身内なら絶対そんなことはしまい。



「……俺の手元に残っとんのは切り分けてラップしたまま腐りかけたオレンジばっかやわ」

腐ったオレンジなんぞ捨てておけというのは止めておいた。
「まだ腐ってないのもあるだろう?」
「せやなあ」


私もよく分からないV7コンビ

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何度目かの春を君と

ぺら紙に記された退団者と新規入団者の一覧に目を通す。
この紙が届くたびにもうそんな季節なのだということを思い出す。
「ブルースサン、元気してまス?」
ふいに扉が開き、ふわっとした柔らかな表情でやってきたのはコカ・コーラレッドスパークスであった。
「……なぁに仕事抜け出してこげな場所来とーとね」
「暇なんでスよ」
「年上ん癖に仕事ばサボるんは褒められんっちゃ」
「私達ニ仕事って言えるようなものないデショウ?」
どこかから持ち出してきたらしいコーラの缶を渡してくるので大人しく受け取っておく。
隣に腰を下ろしてコーラを飲み始めるが書類を覗こうとはしない。
「興味なかとね?」
「公式リリースしてないものを覗き見はしまセン」
「そか」
いちおう紙を裏返して見えないようにしてから、持って来たコーラの栓を開けた。
窓の外は静かなグラウンドが広がり、窓を開ければ春風と共に潮の香りが入り混じる。
「……福岡、もう桜が開いたんですヨ」
「今年は桜があくのが早いっち聞いとるが」
「ホントですよネ、時間の流れって早いでス」
桜の季節になると思いだす奴の影がいる。
一緒に過ごした季節の数よりも一緒に過ごせなかった季節の数の方がそろそろ長くなって来たが、それでも思い出してしまうのだ。
同郷の先輩だった神戸の鉄人よりは傷は浅いが、春はどうしてもそういう感傷を連れて来てしまう。
(……いや、こげなこと考えてもどぜなかなる(寂しい気持ちになる)だけっちゃ)
「スパークス、ちとパス練習こく(する)っち付き合ってくれ」
「いいですヨー」
そうしてその男はへらりと笑って俺を見るのだ。





ブルースとスパークス。
春は桜と一緒に感傷を連れてくるけどゆるい先輩がいるので気が抜けるという話。

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何でもない日のティーパーティ

「またええケーキ買うてきましたね、記念日でもないのに」
小皿に乗せられたのは艶やかな春苺の乗った苺のモンブラン。
ケーキに刺さった小さなカードには北野にある人気のケーキ屋の名前が記されており、いつもよりいいものを買って来たのだという事はすぐに察せられた。
「あら、記念日じゃないと高価なケーキを買っちゃいけないとでも言うの?」
「別にそういう訳やないですけど、こういう高いもんは加古川さんやいつもの女友達らと食うたほうがええと思いますけどね」
「加古川の分は残してあるわ、それに今日は『何でもない日おめでとう』って気分だったのよ」
「……ほんならいいですけど」
マグカップになみなみと注がれた温かな紅茶は、いつもよりも心なしかいい香りがする。
(いつもよりええ茶葉開けたのか、ちゃんと水買うて淹れたのか……まあええか)
一口飲み込んだブラックティーのほのかな苦みと香りでケーキの甘さを静かに味わっていると、ふいに口を開いた。
「つくづく思うけど、生きてるからこそこういうお茶も飲めるのよね」
「そうですねえ」
「排球団や野球部が生まれた日もめでたかったけれど、生まれて苦しみながらも生き延びて迎えた今日もきっと同じぐらいめでたいと思うの」
ふいに姐さんの口から零れた兄弟たちの名前に、一瞬手が止まる。
生きられなかった兄弟たちのことをその口から聞くのは久しぶりのことだった。
「……もし、私のためにあなたを死なせることがあったら私を恨んでね」
「たぶん恨めないと思いますけどね」
亡き後輩のことを思い出しながら、そんな台詞を漏らした。



「それでも、今日まで生き延びたことを祝った方がええんとちゃいます?」


神戸ネキとスティーラーズさん。

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ジントニックと東京の夜更け

シーズンオフは退屈だ。
仕事が嫌いな訳ではないけれど、ラグビーをするために生まれた訳なんだからそれをやらないことがとにかく退屈なのだ。
ワインでも飲もうかと思ったけれどやっぱりいいかと諦めて戻してしまう。
ポケットに突っ込んであった携帯が低い音で着信を知らせてくる。
『サンゴリアス?』
「なんだ、ブレイブルーパス先輩か」
『それが先輩に対して吐く台詞?』
「いえいえ、でご用件は?」
『ドライジン貰ったんだけど一緒に呑まない?』
「行きます」
『じゃあ今から来てよ、あと割り材もよろしく』

****

そうして尋ねた部屋には、イーグルスとブラックラムズさんもいた。
「おつかれさまー」
「久方ぶりだな、サンゴリアス」
「ブラックラムズさんもお久しぶりです、イーグルスも」
割り材の入った袋を机に並べれば、あっちこっちに散らばったレコードやCDのなかでレコードプレーヤーの前に座り込むブレイブルーパス先輩がそこにいた。
その傍らにはジントニックの入ったグラスがぽつんと置かれていた。
「……なにしてんですか」
「次なに流すかなって」
「今日はクラブナイトがテーマの飲みらしいですよ」
「へー、それで割り材持ってこいって言ったんです?」
「そういうこと。サンゴリアスも好きなのあったらかけて良いよ」
足元に散らばっていたレコードを一枚取って再生させてやれば、今では懐かしくなったロックの名曲が流れ出す。
「懐かしいですねえ」
「最近の曲じゃないか?」
「僕にとっては懐かしい曲なんですよ」
これならクラブナイトにはぴったりの歌だろう。
「踊ります?先輩」
「サンゴリアスが踊りたいなら」




ただ東京組をキャッキャさせたかった。
あんでぃもりのクラブナイトは東京組の歌だと思うんですよね。

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