捏造しかない光学ダービーの話
「カメラを買い替えたのか」
「ええ、さすがにもう20年以上使ってましたしね」
新品のカメラを手にしたイーグルスにぽつりと声をかけた。
ウィンドマンスの国際試合には自分たちの仲間も数人着ているが、イーグルスだけは仕事も兼ねていたのもあり随分と遠いところにいた。
「EOS-1D X Mark II……プロ仕様の奴か」
「そこでさらっと機種を当ててくるから同業他社ってすごいですよねえ」
「汝はEOSシリーズが好きだな?」
「あなたがペンタックスしか使わないのと同じですよ」
撮りましょうか?と冗談めかして聞くので遠慮しておいた。
「……むかしは、汝と逢う時はいつもカメラを持っていたな」
「コンデジなら持ち歩いてるんですけどね」
「あるのか」
「荷物に潜ませられるので。一応僕ら、表向きは人間じゃないですからね」
ふとイーグルスがファインダーも覗かずにシャッターを切った。
あまりにごく自然にシャッターを切っていくので、その様子はさながらウォーカー・エヴァンズ(アメリカの写真家、ニューヨーク地下鉄で撮ったスナップショットで有名)のようである。
「ノーファインダーで撮れるのか」
「昔練習したんですよ、ラグビーを撮るのに使えるかなって」
「……汝は撮ることが好きなのだな」
「元々プロになるとは思いもしてませんからね」
目の前の相手がラグビーを好きであることは十分よく知っている。
しかし、同時に比べがたいほどに写真も好きなのだろう。
その愛情の在り方を誰も否定することはできないだろう。
「ラグビーはやるより撮るほうが好きかも知れないなって、たまに思うことありません?」
ぽつりと投げられた問いかけには、無言で返すほかなかった。
イーグルスとラムズ。
個人的にうちのイーグルスさんはマネージャー気質のイメージがあるんですが、その根幹は自分がプロになることを考えたことが無かった事なんじゃないかなあと言う妄想。