5話あたりの話
「釜石!合併の認可下りましたよ!」
事務所のドアを突然開けて飛び込んできたのはここにいるはずのない八幡であった。
その顔は興奮と喜びで真っ赤に染まり、飛び掛かるようにこちらへと駆け寄ってきた。
「いやお前どっから来た?!」
「ちょっと瞬間移動使いました、それはともかく私たちを邪魔する障壁は全部消えさったことを喜んでくださいよ!」
「分かったから落ち着け、な?」
異様にハイテンションな八幡が踊りだしそうな勢いでこちらの身体を掴んでくるが、ここは事務所で周りには職員たちがいるということを完全に忘れている。
職員たちはようやく本決まりかという安堵の空気を漂わせているが八幡はそんなことお構いなしである。
「落ち着いてられるもんですか!ようやく一緒に暮らせるんですよ?!」
「いやまあそうだけどな?まだ仕事残ってるんじゃないのか?」
「それもそうですね、一日でも早く一緒に戻れるよう仕事に邁進してきますね!」
そう言って嵐のように事務所を去っていく。仕事に戻ったのだろう。
年長の職員の一人が呆れたように「あんな八幡さん初めて見ましたよ」と呟いた。
「あいつには悲願だったからなあ、浮かれるのは仕方なかろう」
「ずっと一緒にいて大変じゃないんですか?」
「昔っからあんな感じだしもう慣れた、犬だと思えば可愛かろう?」
「犬って……」
「ま、新日鉄誕生が決まったんならそれに向けて忙しくなるし頑張らないとなあ」
しかしその決定は、覆された。
―数日後―
『釜石さん、新聞読まれましたか?』
名古屋から来た朝一番の電話はどこか不安げな声を滲ませていた。
「実は今夜仕事から戻ったばかりでこれから寝ようかと思っててなあ、手短に頼む」
『あの、富士と八幡の合併のことなんですけど、公取委が裁判所に差し止め申し立てしたって』
「……は?」
『八幡さんから連絡来てませんか』
「いや、特には来てないな。にしても差し止め申し立てかあ、厄介なことになったな」
この話が出てもう4年は過ぎたがまさか裁判沙汰にまで至るとは思わなかった。
八幡は政治献金絡みのでかい訴訟を経験しているがあの時も面倒だ面倒だとぼやいていたし、うちはあまり大きな訴訟の経験はない。
『本当に合併できるんですか?』
「するさ。今更後には退けんしな」