*下妻の初恋話、史実要素あり
「下妻の初恋ってどんな人?」
ふいにそんな言葉がつくばの口から出た。
「何でそんな事聞くんですか」
「だって、自分の知らない下妻があの時代に吐いたはずだもの」
好奇心に満ちた目に逆らえないのは僕の悪い点だ。
「もう遠い思い出ですけどね・・・・・。」
あの人もそんな目をしている人だった。
在りし日の初恋万治元年・下妻。
「利重さまが古河に帰るのは手痛いなぁ・・・・・」
あの日、僕は非常に良くため息が漏れた。
徳川の血筋の名門土井家の支配下にある僕はそれなりにこの一族を信頼していた。
本家である古河が一番大切とはいえ、次に跡を継ぐのは8歳の幼君。
頭の痛みが当然のようにあった。
「お主が下妻だな」
後ろからふいに声をかけられた。
向きなおせば頭痛の種だった幼君・土井利益がいた。
「・・・・・・はい」
「私が土井利益だ」
これが一つの始まり。
* *
10年ほど経って、その幼君も若君になったころ。
「・・・・・・・・利益さま、また遊ばれたのですね?」
「少し位いいだろう?」
「よくありません!」
あの幼子の面影はどこへやら、見事な歌舞伎者になってしまった。
(歌舞伎者=今で言うヤンキー)
「それだから兄君である利重さまから良い扱いをされないのですよ!」
「・・・・・・・下妻はいつもいつもそればかりなのだな」
ぐいっと袂を掴まれて、唇が唇と触れた。
「なっ・・・」
「いつもいつも私の好意を横流ししおって、腹立つ」
「だからって何時までも遊び呆けているのは許しません!」
数分の思考の後に、こんな言葉が飛び出て来た。
「じゃあ土井本家を継いだら私の好意を横流しにしないのだな?」
「・・・・・・考えておきます」
* *
横にいる相手に敢えて続きは語るまい、と思って向くと予想通りふくれていた。
「結局下妻はどうしたの?」
「気持ちだけ貰って後は横流しです」
「約束どおり土井本家を継いだのに?」
「仮に本気で僕が好きだったとしても、向こうは人間ですからね。」
人間に好かれてこちらが本気になっても、傷付くだけならば受け流してしまった方がその方がはるかに幸せだ。
「何そのマイナス思考」
「それに今はあなただけで手一杯なもので」
「・・・・・・・・しもつまぁぁぁっ!」
強く抱きしめられた。
(昔から強引な人ばかり好きになるのは何故だろう)
脳裏によぎったのはそんな疑問だった。
下妻の昔の上司さんのお話。
昨日のうちに早川和見の「シリーズ藩物語・古河藩」を読破したのですが土井家の人たちが素敵過ぎますね・・・・。
自分が一番気に入ったのは今回の利益公ですが、利与公やと利里も人間臭くてお気に入りですw
あと私の脳内で関宿→古河腐ラグが確立されてしまったので、そのうち書くかも。