「おや師匠、こんなところで珍しい」
本来この国にはないはずの赤と青の入り混じった青年の視線がこちらに飛んできて、思わず顔をしかめる。
「……あなたの師匠と呼ばれると寒気がしますね、浦項(ぽはん)」
「師匠は師匠ですから」
さらりと言い切ったその台詞には怒りすら沸いてくる。
恩知らずのクソガキの手元には付き合いの深い日本一を奪って行った自動車メーカーの封筒。
(分かっていても、殺意しか湧いて来ませんね)
ある時期、国の求めのままに釜石や京浜と韓国で仕事をしていた時期があった。
その時に育てたのがこの目の前の青年であるのだけれど、彼は私たちの誰にも似ることなく育った。
京浜が言うには目や耳のかたちが八幡に少し似ていると言っていたけれど、そんなもん似てたまるかという思いの方が先に出る。
まだらになった赤と青の瞳は不自然さを感じさせるが、この青年が生まれた時からずっとこういう色であったことを私は知っている。ああ憎たらしいったらありゃしない。
「どうぞ、風邪など召されないよう気を付けて」
「あなたは一生肺炎で苦しんで死んで欲しいですけどね」
「嫌だなあ、僕は死にませんよ。韓国鉄鋼業は僕と妹にかかってるんですから」
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「君津サンのごはん久しぶりですネ!」
大盛りのカツカレーを目の前ににこにこと笑う南国青年……もとい、ミナスジェイラス製鉄所は素晴らしくいい笑顔であった。
技術研修という名目で2年ぶりの来日を果たした(というか適当に言い訳つけては2~3年に1度は地球の真裏から遊びに来ている気がしてならないぞ?)弟子の事は、まあ、可愛いと思ってはいる。
「ええっと、イタダキマス!」
片言の日本語でそう返してくる弟子に「Vamos lá, mastigar(めしあがれ)」と呆れ気味に返す。
今日はあまり腹も減っていないからと選んだ卵サンドとコーヒーをもさもさと口に運ぶ。
(……弟がいたらこういう気持ちなんかな)
俺たちは人間じゃないから、そういう気持ちをちゃんと理解している訳じゃない。
でも「Delicioso!(美味しい!)」と叫びながら飯を食うミナスジェイラスを、可愛いと思うのはきっと普遍的な感情なんだろう。
浦項と八幡の死ぬほど仲悪い師弟と、ミナスジェイラスと君津のげろかわ師弟。