福井駅西口のベンチに腰掛けながらぼんやりと雪を眺める青年がいた。
この町を走る福井鉄道の鉄道員制服と黒のロングコートに身を包んだ小柄な青年の黒漆の瞳は目の前のホットサンドとコーヒーに向けられている。
「福武くん、なにしとんの?」
「昼飯食ってる」
横から声を掛けてきたのはえち鉄のアテンダント制服に身を包んだ青年だ。
キャメル色のアテンダント制服の上にトレンチコートとマフラーをしたすらりとした青年がベンチの横に腰かけてくる。
「これどこで買ったの?」
「プリズムん中の喫茶店、新商品らしい」
「へぇ、一口ちょうだい」
「ん」
食べかけのホットサンドを半分に割るとまだ口をつけていない方を渡してくる。
ありがと、と言いながらそれを受け取ると美味しそうにほうばった。
「これ美味しいねえ」
「おう」
「今度三国の酒饅頭貰ったらそっちの本社行くとき持ってくね」
「お前の兄さんは要らんのか」
「お酒と五辛は控えてるから酒饅頭も控えてるんだよ」
「ふうん」
「そういえばこの間兄さんと話してたんだけどボルガライスって兄さんでも食える?」
「店による、あれは店ごとでだいぶ味付けが違うから使ってる調味料も異なるしいちいち確認するのも手間だから一番手っ取り早いのは武生に頼んで作ってもらう事だな」
「えー……俺あの人ちょっと苦手なんだよなあ、怖いじゃん。えっちゃんには逢いたいけどさ」
「俺と直通してるのにか?」
「福武くんとはそれなりの付き合いだから顔が怖いのはもう慣れてるけど、武生さんの方が怖いじゃん」
「それ、本人に言うなよ」
「言いません。兄さんがボルガライス興味あるっていうから食べさせたいんだよね」
「……お前は兄さんに甘いな」
いささか呆れたように福武と呼ばれた青年が笑う。
「たった二人の兄弟だからね、ああもう俺行かなきゃ。福井口で兄さんと合流しないと行けなくてさ」
じゃあねと言って立ち去ろうとしたとき。
「三国芦原線、」
「……なあに?」
「こんど休みを合わせて永平寺勝山線、お前の兄さんもつれてボルガライス食いに行こう」
「了解。」
三国芦原線と福武線の話。