*筑波高速度とTXさんが現代で会うお話。
いちいち細かく考えたら負けです。
つくば駅の駅員専用の休憩所。
(・・・・・指の感覚がおかしいな)
ぐっぱ、ぐっぱと指を動かしながら自分の手が自分で無くなるような感覚から逃れようとしていた。
つくばエキスプレスになる前のぼんやりとした遠い記憶。
自分を飲み込もうおするような記憶の渦が渦巻くときはいつも指の感覚がおかしくなる。
『・・・・・磐新線、おまえは』
『あなたには』
混乱した東京さんの声、つくばさんの声、常磐の、京成の、さまざまな声が交じり合った耳鳴りがした。
突然、小さく声がした。
「つくばエキスプレス」
「Wirst du wer bist du?(あなたは誰?)」
「筑波高速度鉄道、あなたは知らないでしょうけれどね」
「本で読んだ覚えがあります」
「あなたにどうしても会いたくて、ここに来たの。私の記憶をあなたに引き継いで欲しくて」
あなたにはつらいものもあるでしょうけれど、と彼女が付け足す。
自分にとってのつらい記憶、というのはたぶん自分が生まれる前の記憶だ。
開業前の記憶はすべて忘れてしまったけれども、どうやら断片的には残っているらしいからたまに襲う耳鳴りはこうやって誕生以前の記憶に集中していた。
「ichが記憶を引き継ぐことに何の意味が?」
「あなたは私の希望だから。
なりそこないの私の代わりに東京と筑波をつなぐ糸として開業してくれた。私はもう生きていないけれど、あなたにずっとありがとうを言いたかったの。
そしてあなたが私の記憶を引き継いで、あなたの糧になればいいと思ってる。だめかしら?」
もし、自分の開業以前の記憶を引き継いだら。
彼女の持つ記憶が自分を分離するような右手の違和感の原因ならば、それは自分の糧になりうる。
「・・・・・いいですよ」
「ありがとう」
彼女が違和感のある右手に触れて、体に流れ込む刺激を受け止める。
流れ込む記憶が走馬灯のように走り去る。
彼女が自分を希望と呼んだ理由、記憶を引き継いで欲しいと頼んだ理由。
走馬灯がぷつりと消えた。
「そっか、そういうことだったんだ」
いつしか右手の違和感が消えていた。
* *
押上・京成橋
「珍しいね~☆おれっちがTXに呼び出されるって!」
「ある人から伝言を賜ってきました」
「へ~、誰?」
「・・・・・・『あなたといられて良かった、京成上野からずっと見守ってるから安心して欲しい』って」
自分の記憶を埋めた女性からの伝言。
こんなのは性に合わないけれど、彼女は自分なのだから自分の口から伝えておくべきだった。
「もしかして・・・・」
「そのもしかしてです。」
「うわー・・・・泣きそう」
「ichは、京成上野線だった。この間そういわれたので」
「気にするっての!俺は、筑波しか見てなかったのに!そっくりだったのはそういうことなのかにゃ?!」
「たぶん」
京成橋に記憶のような雪が降り積もる。
その雪は消えていた数十年分の記憶のように暖かい。
TXと筑波高速度のお話。
TX≈筑波高速度なんだよ、という設定は勢いで追加しました(爆)
いや、京急擬人化サイトで筑波高速度(京成上野線ってなってたけど)=京成本線というのを見てぴゃーなったせいです。
筑波が生きてる!京成、嫁が生きてるぞ!的な衝撃です。
このサイトは京成筑波高速度が根底にあるので京成さんは尋常じゃなく嫁大好きです。
え?そしたら記憶を引き継いだTXが不安?私もです。