久しぶりの自宅は埃っぽい空気に満ちていた。
スーツから部屋着のジャージに着替え、窓を開けると冷たい夜の風が吹き込む。
一足飛びに冬に突き進んでいくせいで具合を悪くさせる人もいてつくづくげんなりする。
(……最近は何もかもの動きが早くて嫌になりますね)
タバコの火をつけるといつもの煙がふわりと漂って風に流れて消えていく。
この後どうしようかと夜空を見上げて考える。
そういえば空港で食べるつもりだった夕飯をまだ食べていなかった事を思い出した。
この時間だとすでに寝てるだろう戸畑をこき使うのは些か忍びない、小倉を叩き起こしてもいいが余計な喧嘩を売るのもおっくうだ。
買い出しに行くのも面倒だし冷凍庫に何かあっただろうかと開けてみると、冷凍のスープセットが出てきた。
いつ買ったのかは覚えてないが少なくとも期限は切れていない。
レンジに入れてスープを解凍し、買い置きしてあるくろがね堅パンを軽く砕いて食べやすくする。
この家で過ごす時間はそう多くないので日持ちするものしか置かないようにしているが、しばらくはこちらで過ごせそうなので明日買い出しに行ってもいい。
チンとレンジが音を鳴らせば熱々のスープが出来上がると同時に煙草を消す。
大きめのマグカップにスープを注いで砕いた堅パンをざらざらと流し入れる。
スープを一口すすれば玉ねぎの甘みがしてホッとする。
窓の外には己が育ち、育てた北九州・八幡の夜。
ここはやはり自分の街なのだと思えば思うほど、誰にもここを傷つけさせまいという思いがじわりと胸に染みていった。
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八幡さんの夜食