夜の海に飲まれてしまいたい、と思った。
「……結局間に合わんかったな」
新しい引き取り先を探して奔走した5月がもうすぐ終わろうとしている。
さようならとか、ありがとうとか、そう言ってくれる奴はいてもうちにおいでよとはついぞ言って貰えなかった。
まだやりたい事は沢山あった。日本一の称号に触れることも無いまま自分はこれから長い長い眠りにつくのだ。
いちおう最後かもという気持ちで挨拶はしたし、今夜はひとりにして欲しいとも頼んだ。
この世界と別れるその時に泣いてしまう自分を見せたくないという最後の意地だった。
梅雨入り前の穏やかな海に足をつける、月の光と混ざって足がとろけていく感じがする。
「行くか」
ざぶん、ざぷん、と海の底へ歩みを進める。
またいつかこの海辺の練習場に帰る日まで、迎えを待っている。
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ブルースさんの話。早く戻って来いよ……