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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

今年も青の国

「今年は結構早めに咲いたんだなあ」
俺がポツリとそう呟くと、ひたちなかは「天気のせいですから」と答えた。
この季節のひたちなかを代表するネモフィラブルーに包まれた丘を遠くに眺めながらするのはこれからの観光客の出足の予想だ。
「天気はしょうがないんとはいえ……ゴールデンウィークまで持つんだぜ?」
「見ごろが終わって散りだす感じですかね」
「ってことはうちに寄り道する観光客の出足にも響きそうな気がするんだぜ……」
はあと深い溜息を吐きながらも、もう一度青に染まるネモフィラの丘を見つめる。
空に溶け込みそうなブルーがどこまでも広がる丘に「ほんと綺麗なんだぜ」と呟いた。
この公園が無ければ生まれなかっただろうひたちなかとこの公園が無ければ生まれなかった景色を見つめている、それは悪い未来ではなかったと思いたい。
「そうだ、ネモフィラアイス食おう」




ひたちなかと大洗のゆるゆる小話

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君津老師と焼き小籠包

「您好、君津老師」
すらりとした体つきの育ちの良いオリエンタルな面立ちをした中山服の青年の来訪に思わず目を丸くした。
「……宝山?なんでいきなり」
「仕事で少し東京に来る用事があったんですよ、お邪魔して構いませんか」
宝山製鉄所はその設立から現在に至るまで君津製鉄所が深く関わった施設であり、俺にとってはまだ弟子とも呼べる存在である(ウジミナスも弟子ということにはなってるけど一応向こうの方が年上なので色々複雑なのだ)
「俺は良いけどあんまり綺麗じゃないぞ?」
昨晩遊びに来ていた千葉と鹿島に荒らされた部屋は2人をこき使ってあらかた片づけはしたものの、まだ完全に綺麗になった訳じゃない。
「大丈夫です、突然来たのは僕の方ですから」
「なら良いけど……その手にある袋は?」
その手に一緒にぶら下がっていた冷蔵用の袋を指さすと「生煎饅頭(焼き小籠包)です」と返ってくる。
「生煎饅頭か、上海にいた頃何度か食ったなあ」
「最近は日本でも手に入ると聞きましたが生煎饅頭は上海のが一番ですよ、東京のは所詮ニセものです」
「日本で食える奴もあれはあれで美味いんだけどな」
「台所お借りしても?せっかくなので焼きたてをご用意しようと思って準備して持って来たんです」
「自由に使ってくれていいぞ」
宝山がさっそくフライパンを借りて小籠包を焼き始める。
出会った時はまだぶかぶかの宝山服を纏った小さな子どもの姿をしていたが、いまや中国屈指の鉄鋼企業として日本の製鉄業に立ちはだかる壁になってしまったことを喜びたいような嘆きたいような複雑な心持ちになる。
しかしこうして俺の前にいるときは昔とさして変わらないままで、ニコニコと小籠包を焼き龍井茶を淹れてくるので可愛いものだと思ってしまう。
「前にプレゼントした中国茶道具使ってくれてるんですねえ」
「たまーにだけどな」
「ちゃんと大切に使われてる色をしてるから分かりますよ」
上海で宝山の面倒を見ていた時に覚えた中国茶は時折千葉や鹿島に乞われて淹れる程度だが、手入れとして個人的に淹れることもあった(道具は使うことが最善の手入れだと言うのは釜石の弁だ)のが道具そのものに出ていたのか。
「あ、生煎饅頭もそろそろかな」
そう言ってさっそく皿に盛って茶と共に目の前に並べられる。
「……なんというか、完全に俺が客人扱いだな」
「敬愛する君津老師とお茶をしたかったので」
「そうか」
なら仕事の方で俺たちに優しくしてくれと言いたくもなったがたぶん無理だろう。
「让我们吃吧(いただきます)」
「请吃很多(どうぞたくさん食べてください)」
焼き小籠包をレンゲに乗せて割ると美味しそうな匂いと共に透明なスープがじわりと広がってきて、あの頃のしんどい思い出がよみがえる。
「あの時はお前の上司に振り回されてひどい目に遭ったな」
「そういう時代でしたからね。さあ、冷める前に食べましょう」




君津と宝山。

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海の向こう、あの河の果て

半ば無理やり眠らされていた状態を叩き起こしたのは釜石だった。
「久しぶりに起きたなあ」
「俺、眼の色変わってない?」
「変わってないさ。広畑製鉄所は富士製鉄……お前さんには北日本製鐵と言ったほうが良いか、とにかくうちで引き取ることになった。
それに伴ってちょうどさっきお前さんの高炉に火を入れ直したばっかりなんだ」
5年に及ぶ眠りから目覚めてみれば総理大臣は変わり、経済界は好景気に沸き、年齢の唱え方まで変わっている始末だ。
しかし不穏な感情を一番強く煽ったのはある新聞記事だった。
「……仁川に米軍が上陸?」
首を傾げていると様子を見ている八幡が「ああ、知らないんでしたっけ」と呟いた。
「朝鮮半島が南北で別の国になったときはもう寝てましたっけ?」
「知らない」
呆然と呟くと今海の向こうで起きている戦争について滔々と説明してくれた。
その説明の半分もうまく理解できなかったけれど、よぎったのはひとりの仲間の姿だった。
「……清津は?」
同じ拡充計画の下で生まれ、一日違いで発足した兄弟も同然の彼の名がその口をついた。
海を隔てているからちゃんと顔を合わせたのは一度か二度だけれど、俺たちは兄弟も同然だった。
「清津はもううちの人間じゃないですよ」
「別れたとしても俺にとっては兄弟だよ」
八幡は少し考えこんでから、慎重に言葉を継いだ。
「正直ちゃんとした事は分かりません、北も南も軽率に壊しはしないでしょうけどいかんせん戦地のことですからね」
「いつ会える?」
「早くても戦争が終わるまで、最悪の場合はあなたという存在がここから消えるまで」
「北の政権下に入れば手紙すら貰えなくなる?」
「可能性は高いでしょうね」
その言葉に呆然とした。
人間よりも長く生きられるこの身であっても二度と会えないということは、絶望的な心境に落とさせた。
「清津のことを気にしてもしょうがないでしょう、広畑」
「気にするよ」
「……そういう事を気にすると気を病みますよ」
八幡はそんな冷めたことを言う。
俺には無理なことだ、と思いながらももう二度と逢えないかもしれない彼を思って静かに泣いた。




テレビで朝鮮戦争の話をやっていたのでつい考えてしまった広畑のお話。

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芝の海、太陽の島

日本とは季節が正反対の町の片隅で、思い出したようにシャッターを切る。
戯れに撮った写真を見返しながら時間を潰してはふらりと街角に出る。
「あれ、今年はウェリントンなんだ」
「……ワイルドナイツか」
ふいに声をかけてきたのは日本では見慣れた黒髪に青い一筋の毛が混ざった男・パナソニックワイルドナイツその人であった。
「今年は珍しくついてきたのだな」
この時期各チームは選手をオーストラリアやニュージーランドのチームへ短期留学させることが多いので、自分のようなスポーツチームの化生はシーズンオフで暇を持て余してこっそりついていくことがあった。
自分などは異郷に行くのは割と好んでいたので毎年のようについていったが、ワイルドナイツはあまりついていくイメージが無かった。
「たまにはよそで刺激を受けてこないとって思ったので」
「それもそうか」
「いつまで滞在予定で?」
「ワイカイトに2か月の予定だが」
「……ワイカイトってオークランドの手前じゃ」
ワイルドナイツの言うとおりである。
ウェリントンから電車で半日ほどかかる距離にある地名に困ったような表情を見せた。
「発車時刻にいささかの猶予があって、その暇潰しで散歩をしていた」
「ああ……」
「前から思っていたが、汝は我よりも後の生まれのはずだがもう少し敬ってくれてもいいのだぞ?」
「俺の先輩は一人だけなもので」
「そうか」




ワイルドナイツとブラックラムズの異郷でのひと場面。
この時期は色んなチームがNZに向かってますね。

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イーハトーブの海と春

全国各地では桜の便りが随分と早く届いているというが、この南三陸は釜石の地に桜の気配はまだほど遠い。
「今年はずいぶん入ったなあ」
新加入選手情報を見ながらそう呟くと、シーウェイブスが淹れたてのコーヒーを出してくれる。
「今年はごっそり抜けましたからね」
「まあそうなんだがな」
この季節の楽しみである新しい選手の情報を眺めながら、シーウェイブスと一緒に誰がどういう選手だという話にゆるりと花を咲かせる。
それはこの春という季節のささやかな楽しみでもあった。
「今年こそ降格争いしないで済むと良いんですけど」
ぽつりと漏らした弱音に、こつんと軽く頭を叩いてやる。
「まだ夏以降の予定も出てもいないのに弱気になるのは早すぎだろう」
「……まあ、そうですけどね」
近年の成績を思えばシーウェイブスの心持ちは、分からないでもない。
しかしあの沈んでいた町に優勝の二文字を持ってきたあの日を、更地となった街で凍えるような寒さの中をずっと自分たちの傍らにいてくれたあの日を、一度だって忘れたことはない。
「シーウェイブス、」
「はい?」

「お前はいつだってこの街に色んなものを呼んでくれる。若い選手たちとかたくさんの観客とかそう言うもんだけじゃない、新しい文化も喜びや繋がりみたいな目に見えないもんも。
だからお前はわしにとっちゃあ春の海なんだ」

凍える冬を超えた春の海は、色んなものを連れてくる。
温かな日差し、近隣から集った若き鉄の男たち、旬の魚や野菜たち。
あの日からこの子はまさにそんな春の海そのものであった。
「だからそんな寂しい事を言わんでくれ」
どうか、君は永遠に希望であってくれと願っている。

***

―それから数日後―
春は温かで優しい希望の季節だ。
入所式の片隅にそっと腰を下ろし、製鉄所関係者の後ろにじっと立つ釜石さんを見た。
新たに入ってきた若者たちを暖かく優しい眼差しで見つめている。
ふいに数日前に言われた言葉を思い出す。
『お前はわしにとっちゃあ春の海なんだ』
春の海という言葉は海の波を名に冠した自分にはぴったりのように思えた。
製鉄所で仕事をしながらラグビーに共に励むことになる若者たちに目を向けると、その目は艶やかな黒をしている。ただただ希望に満ちた質のいい石炭に似た汚れなき黒の瞳は新生活への希望を感じさせた。
いつか大木になるやもしれぬ未来の名選手たちを見ていると、少しだけ元気が湧いてきた。

(この若々しい苗木のような選手たちを信じよう。)

やることは最初からはっきりしているのだから、焦ることはない。
彼らが、いつかトップリーグの芝の上に連れていってくれる日を信じて走るだけだ。



釜石親子の春。そう言えばこの二人を書いていなかったので。

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