「・・・・・・今日は、うちを片付けますかね。」
雨音で朝、目が覚めると乱雑な部屋があった。
若い男の一人暮らしとはいえこれは酷い。
ぴーんぽーん
朝っぱらからチャイムが鳴る。
「どちらさんですかー」
「自分ですよー筑波だよー」
ドア越しに声が響く(起きずとも声が聞こえるのは小さい1LDKクオティ)
こんな時間から来るって、そう呟いて時計を覗くと9時半。
(・・・・・・遅かったのは僕ですか)
面倒なので着替えもせずドアを開けるとびしょぬれの筑波さんがいた。
「こんな朝っぱらからどうしたんですか」
「朝ごはん・・・・・・作ってもら「冷蔵庫に入れたと思うんですけど」
間髪をいれずに突っ込む。
「今日はパンより下妻の炊き立てご飯が良い、から。」
(あんたパン党の癖に!)
「・・・・・・分かりましたよ、はいってください。」
また今日も振り回されるな、そう内心で呟きご飯を見に行った。
* *
「・・・・・・おかえりなさい、小山」
雨の日の泊りがけ出張から帰ってくると。
「ただいま、ですね。」
結城さんがいた。
「なんでいるんですか?待って無くても良いのに。」
「鍵を渡さないのはそっちじゃないですか!鍵があれば普通に入りました。」
「渡したらさらに酷いことになりそうなので勘弁してください。」
この人は僕の隣人、そしてストーカー。そしてそして元主にして恋人のようなもの。
「小山、ご飯は作ってきましたよ。レンジで暖めてください。風呂の準備をしてきます。」
お重3段にわたる夕食をテーブルに置き、さっさと出て行く。
「まさか、今日泊まっていくつもりですか?」
「・・・・・・私も人肌が恋しいんですよ。皆旅立っていきましたから。」
少しだけ、この人が可愛いと思えた。
「そうですか。まあ、一泊ぐらいなら良いですよ。」
下手にこの人に心を許すと魅了される。
『桜夜叉』と呼ばれていたときから、ずっと魅了されていたのかもしれない。
また、あの人に恋をしそうだなんておかしいんだろうけど。
* *
「・・・・・・下館」
雨の中にふと見つけたあの日から。
「おっさん、何してんの?」
忘れらない顔があった。
「別にいいだろ?俺が板谷波/山見てて悪いか」
「いや、意外だなって。」
あの日見つけたのはこんな小憎たらしいような顔じゃなくて、孤独だった。
まるでいつまでも振り向かない人に送るような目を遠くにいる結城と小山に向けていた。
「そうかよ、年にあわずこんなとこに来るんじゃないよ。」
「・・・・・・あいにく俺の家が誇る最高の男だからな。」
「お前んち、何にもないもんな」
「うるせーよ、じじいが。」
(年甲斐にあわず、俺は恋でもしてるんだろうか)
一瞬そんなことが思考によぎり、首を振る。
「じじい言うんじゃねーわ」
こんな餓鬼相手に、馬鹿だろう。
「そう反応すんのは本物のじじいだけって決まってんだよ」
とある雨の日のことだった。
おわり