越前町がうちの台所でカニを茹でている。
「……妹よ、いったいなぜうちでカニを茹でている?」
「こっちのコンロの方が火力強くて使いやすいから」
別に越前町がほんとうの妹だとかそういう訳ではないのだが、ノリでそう呼び合うようになってもう10年以上過ぎたのでもはや定番のネタとなっている。
「ちなみにそのカニは俺の分もあるよな?」
「いちおうね、残りは全部みやまさんとか常滑さんに贈る予定だから」
「客人に贈るカニなら自分ちで茹でろや……」
溜息を洩らしつつもカニの茹でられるあの匂いは食欲をかき立てられる。
(……この匂いは冬って感じがするよなあ)
カニ漁が解禁され、あちこちで越前ガニの看板が立つこの季節は、嫌いじゃあない。
「味見用のカニが茹で上がった!食べよう!」
越前焼の大皿いっぱいの大きな大ぶりの越前ガニが、どんと突き出された。
「いただきます」
越前ガニの解禁日だよ!