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コーギーとお昼寝

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関西女子のハロウィン・ティーパーティー

「神戸、お前さん最近ずっと煮詰まってるだろう?」
何の前触れも遊びに来た此花は私にそう聞いてきた。
「……今それどころじゃないのはあなたも知ってるでしょう」
「知ってるさ。でも、ずっと気を張り詰めてるのも良くない。
幸いお前さんとこの上司にコンタクトは取ったら土日は休ませるつもりだったらしいし、せっかくだし今からハロウィンしないか?あたしに任せてくれりゃ本場アメリカ仕込みのハロウィンを堪能できるぞ?」
「ハロウィンの本場はアイルランドでしょう?」
「そう言うツッコミは受け付けません、もう定時だし今日は上がらせてもらいなよ」
この様子では譲らないだろう、と言う事はすぐに察した。
私は深くため息を漏らすと書類を置いてタイムカードを切った。

関西女子のハロウィン・ティーパーティー

西宮の家は木造の平屋で、葺合と一緒に暮らしていた時の名残が今も残っている。
あの地震でも運よく壊れることのなかった家は今はもうかなりガタが来ているはずなのだが、綺麗に掃除されていたり葺合のものがまだ片隅に残されている辺りに別のところに移る気が無い事をいつも感じ取ってしまう。
「姉さん」
「加古川も呼んだの?」
「たまにはね。今日は私と此花でおもてなしさせてもらうから、二人ともゆっくり座ってて」
此花が台所に行くと西宮が淹れてくれたのはミルクティーだ。
ほんのりと香る栗とカスタードのフレーバーは確かあのお店の通販限定商品だった気がする、わざわざ西宮が用意してくれたという事だろうか。
「うん、美味しく淹れられてるわね」
「良かった、神戸がそう言ってくれるならきっと大丈夫ね」
「姉さん、そっちのミルクティーも少し飲ませてくれる?」
「いいけど何飲んでたの?」
「あったかいアップルサイダー、こっちも美味しいけどそれも少し気になって……」
加古川の手元にあったのは温かな林檎のジュースだ。
ほんのりとクローブやシナモンの香りがしてきてこちらも美味しそうだ。
「じゃあ交換ね」
カップを交換して一口飲んでみると、すりおろした林檎の甘酸っぱさをスパイスが引き立ててくれている。
(……これも美味しいわね)
ほうっと一つため息が漏れる美味しさだ。
「これも此花が?」
「うん、意外でしょう?」
西宮の手元にも同じアップルサイダーが入っていた。
「うーし、お待たせー」
ぽんと食卓に置かれたのはカラフルに装飾されたキャラメルアップルにパンプキンパイ。
そして小さなアルミカップに入れて焼かれた見慣れない焼き菓子が全員に配られる。
「あの、此花さん、この焼き菓子は……」
「アイルランドのバームブラックっていうハロウィンの定番菓子だよ、ホントは切り分けて食べるんだけど今回は食べやすくこうしたんだ。あと、この中には占いとしてちょっとした小物が入れてあるから間違えて飲み込まないようにね。」
「辻占菓子みたいね」
そう言えば大正の御代にはよく見かけたけれど、もうめっきり見なくなってしまった焼き菓子の中に占いの紙の入ったお菓子を思い出した。
「出てくるものにはどういう意味があるんですか?」
「指輪は結婚、硬貨は金運上昇、布切れは貧困、指ぬきは女性が結婚できない、だったかな」
そうして全員がぱくりとバームブラックを齧る。
干しブドウの酸味やオレンジピールの苦みの奥に、固い食感が来た。
「……硬貨が出たわ!」
「おお、いいじゃんおめでとう」
「私も指輪が出て来たんですけど結婚する相手なんていない……」
「吉兆だよ吉兆、いい人が出来るって事だろう。西宮は?」
「まだ出てこないからちょっと待って」
食べ残った分を西宮が割るとコロンと指ぬきが落ちてきた。
と言う事は布切れは此花のところに行ったらしい。
「……やれやれだね」
此花が苦笑いで誤魔化すと、ひどく愉快な気分で笑いあった。





おまけ:宴の後のお片付け(西宮視点)
「付き合わせてごめんな」
此花がそう言いながらごみを仕分けていくので「別にいいの」と返した。
同じ関西の仲間を心配する気持ちは私にもあったけれど、此花はいつも自分の思いを素直に表に出して一番に心配してくれる。
それが私が此花を信用するゆえんでもあった。
「でも、あのバームブラックは最初から仕掛けておいたんじゃない?」
「さあてね?」
此花のその返事は遠回しの肯定のように響いた。


関西女子トリオ。

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