降り止まない雨とじめじめとした梅雨空と空気に情緒がかき乱される。
昔からこの季節はどうも苦手だ。まして大雨ともなればなおさらのことで、ないはずの古傷がうずくような感覚すらする。
クーラーをつけてみてもすぐに部屋が冷える訳ではない。
(……釜石に逢いたい)
こうなるといつだって自分の支えだった人のことばかり思いだす。
己の師にして最年長である釜石は、国家の威信を以て完璧であろうとしなくてもよいと言ってくれる唯一のひとなのだ。
とりあえず電話でもかけてみよう。あの声を聴ければ少しは穏やかでいられる気がする。
携帯電話を鳴らすとベルが鳴り終わらぬうちにその声が私の耳に届く。
『八幡、どうかしたか?』
「ただ釜石の声を聴きたくなったんですよ」
『そうか、そっちは大雨だろう?身の安全には気を付けろよ』
「もちろんですよ」
今宵は七夕。
この雨では天の川にかささぎの橋を架けることはできないだろうが、電話の一つかけたって誰も怒りはしないだろう。
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八幡釜石の七夕