地響きのような着弾音、燃える街で人々を防空壕に押し込んでいく。
とにかく、一人でも生き延びさせる。この街の未来の守るために。
その焦燥感だけが傷ついてぼろぼろの身体を突き動かす。
火傷のひりひりとした痛み、骨が折れたような痛み、生ぬるい血が垂れる横っ腹。動くべきじゃないと分かってても体は焦燥感で動いている。
燃え盛る街を彷徨う子どもと目が合った時、頭上からグラマンの音が耳を突いた。
その子供を腕に抱えて、抱えて……
目が開いた。きょろきょろと視線を回せば何度も暮らしている家だった。
重い身体を動かすとデジタルの目覚まし時計は2020.7.14という日付を示していて、あれが夢だったと分かった。
悪夢を見ることは何度もあったけれど慣れることは一度だってない。
その証拠に寝間着が汗で湿っている、手足も頭もひどい寝汗でじっとりとして不愉快だ。
帯を解いて肌着も脱ぎ捨ててお湯で湿らせた濡れタオルで腕をぬぐうと、少しは寝汗もマシになる。
誰かの声を聴いて甘えたいような、けれど最年長として甘えてしまうべきではないような、複雑な思いを逡巡させながらゆっくりと全身を濡れタオルで拭っていく。
身体にいくつか残る古傷は皮膚が薄いせいで青ざめたようになっていて、温かい濡れタオルでようやく血の気を取り戻した。
全身をぬぐい終えると新しい下着と着物に着替え、ついでに薄い長羽織も着ることにした。
汗だらけの寝間着と下着、枕カバーは洗濯した。もっとも、今日洗ったところで梅雨だから夜までには乾かないだろう。
案ずるように猫の姿をしたサッカー部が近寄ってくる。
虎舞の虎によく似た黄色と黒の毛並みは自分のところの部活たちに共通の姿であるけれど、人型を取れないまま自分のところにいるのはいまやこの子だけだ。
「……長く生きると、いいことも増えるがそれ以上に嫌なことが増えてく気がするなあ」
よしよしと撫ぜれば励まし方が分からないのか全身を自分に委ねてきた。
その毛並みを撫でながら今日という日を、想う。
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釜石おじじと悪夢の向き合い方。
釜石艦砲射撃の日に寄せて。