毎年、八幡からバレンタインにチョコが届く。
聞いた話だと全員に贈っているらしいのでたぶんそこまで意味はないのだろうと思う。
届いた生チョコをブラックコーヒーと一緒に片付けながら、溜息を吐いた。
「……今年も贈り損ねたな」
毎年、八幡にチョコを贈ろうと思うと思うのだがどうも毎年贈り損ねる。
激戦のチョコ売り場に行くのは嫌だし、ネットで買うにも何を買えばいいのかと迷いすぎて結局いつも贈らずにバレンタインが終わるのだ。
残りは後で食べようと生チョコのふたを閉めて考え直す。
せめてお礼のショートメールでも送ろう、と携帯を開く。
『チョコ届いたけどすごい美味かった。ありがとう』
簡単なメッセージを投げれば、返事はすぐ届く。
『君津の方も届きましたか。』
『御礼届いてない奴いるのか?』
『鹿島と直江津と釜石がまだ届いてないんですよ』
『たぶんだけど鹿島はこっちから聞かないと返事出さないかも。』
『何なんですかねあの子、返事ぐらい自発的に出してくれればいいのに』
『鹿島は広畑とは違う意味でマイペースだから。俺の方で言っとく』
一度画面を切り替えて鹿島に電話をする。
あいつはメールだと無視することがよくあるからしょうがない。
「もしもし?」
「鹿島、八幡からのチョコ届いたか?」
「……あそっか、今日バレンタインか。俺今外出中だからまだ受け取ってないよ」
「受け取ったら返事送っとけよ」
「はいはい、じゃあね」
電話をぶっちぎってきた鹿島はある意味いつも通りだ。
メールの返信はまだ来ていない。
まだ残っていたコーヒーを飲見ながら返信を待つ。
『いま釜石から御礼届きました、鹿島は何か言ってました?』
『まだ受け取ってないって』
即座に返事を送ってもたぶん返事はないだろう。
釜石と嬉しそうにメールをするその姿がはっきりと想像できるのが無性に悲しくなって、甘ったるい生チョコを一口放り込んだ。
バレンタインの八幡君津