『なあ、17日の夜会えへんか?』と甘えたように頼むからわざわざ宿を取った。
東京駅の人波をかき分けて東海道新幹線の改札までたどり着くと、スティーラーズがひらり手を振った。
「久しぶりやなあ、元気しとった?」
「……元気に見えるのか?」
皮肉げな言葉を漏らしてしまったのは昼間の試合が全くダメだったからだ。
前半無得点で終わった試合は後半の猛攻の甲斐無くぼろ負け。自分に失望したくなるぐらいの不甲斐なさだった。
「そういう意味ちゃうわ。まあ俺も明日はヤバい気がするしなあ」
「明日の試合、デクラークが出るんだったか」
「まあベンチスタートやから出てこーへん可能性はあるけど想像しただけでアウェイすぎるわ」
世界的人気選手の日本デビュー戦になるかもしれないときに相手をしないとならない憂鬱さは正直全く想像がつかない。
しかし、世界的人気選手が近所で見れるならと見に行く側の気持ちは想像できる。
「憂鬱な話はええか、行こ」
スティーラーズがごく自然に手を取り、そのまま駅の外を目指す。
足の長さの違いを歩数で補いながら東京駅の外に出る。
信号で止まった時後ろを振り向けば駅舎はライトアップされ、赤レンガが鮮やかに夜を彩っていた。
「すごいな、夜の東京駅」
「見た事あらへんかったん?」
「ああ、向こうに行っていいか?」
「ええよ」
東京駅の真ん中、皇族や貴賓客の出入りに使われる入口のほうに向かえば威風堂々たる装いを見せてくる。
そういえば、こうしてゆっくり東京駅を見たことはなかったかもしれない。
ぼうっと見つめていると隣からカメラのシャッター音がして、スティーラーズに写真を撮られていた事に気づく。
「……撮ってどうするんだ」
「お前が足りひん時に使うだけや」
それがどういう意味なのかを直接聞くつもりは無いがロクな使い方ではない気がしている。
しかし消せと言って素直に消すような奴じゃない。
「人には見せるなよ」
「見せへんわ」
スティーラーズがニヤリと笑う。
もう好きにしてくれというような気持ちで「そうか」と返すしかないのだった。
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東京駅デートするシーウェイブスとスティーラーズ