『星に届かないことは恥ずかしいことではないが、手を伸ばす星を持たないことは恥ずかしいことだ。』という言葉を教えてくれたのは確か彼女であった。
明治以来の港町の名を掲げ誰よりも気高く凛とした女性が好む言葉としてはこれ以上に最適な物はないだろう、というのは俺と彼女の妹の共通判断であった。
「釜石シーウェイブス、」
「彼はここに居ませんよ」
「ああ、加古川さん」
彼女の妹が困ったように笑いながら紅茶を注いだ。
いい紅茶をティーカップでちまちま飲むよりも安い茶葉でマグカップいっぱいに注いでもらう方が嬉しい俺のため、マグカップになみなみと冷たいミルクティーが注がれている。
「彼の事でも?」
「まあ、そんなとこです」
「新シーズンはいつからでしたっけ」
「トップリーグは8月18日、トップチャレンジが9月だったか……」
「ちょうど一か月遅れになるんですねえ」
「……あいつ(シーウェイブス)は、俺のことを届かない星みたいに言うようになったのはいつだったか」
リーグ開幕までの一か月の差は大して大きなものではない。
しかし、いつの間にか遠ざかったあの男との距離がほんのわずかに寂しい。
加古川ちゃんとスティーラーズ。