「なんで俺クリスマスなのに四日市じゃなくて釜石にいるんだろう……」
ヒートが突然意味の分からない愚痴を漏らし始めた。
今日は酒を飲みながら試合を見ようという話になってビールを飲ませたらこれである。
「まあシーズン中だしなあ」
「そうだけどさあ~せっかくらぶらぶの彼女がいるのに何でこんな強風吹きすさぶ釜石にいるんだろうなあって」
そう言いながら黄金色のピルスナーで蒸し牡蠣を流し込んだ。
文句を言いつつ食を満喫してるなこいつ、という本音はウィンターヴァイツェンで誤魔化した。
「クリスマスをまともに祝えるラガーマンがいた試し無さそうだけどな」
「うっ」
「それに向こうだってわかっとるじゃろ、おんなじラグビーの世界に生きとるならなおさらな」
「でもどうせ釜石行くなら5月ぐらいに来たかったんだよなあ」
最後のひとくちを綺麗に飲み干すと、ビールの空き缶を華麗なキックで放り込んだ。
「本州で最も寒い2月の盛岡よりはましだと思うがな」
「……そんなに寒いの?」
「寒いぞ」
具体的にどう寒いかを懇切丁寧に説明したら「……なら12月の釜石でいいかな」という答えが来た。
実際自分でも2月の盛岡ゲームなんて言われたら土下座してでも回避すると思う……グルージャとかどうしてるんだろうな?
「シーウェイブス!」
フラッと現れたのはうちの親である釜石製鉄所その人だった。
「今日はヒート君と昼酒か」
「まあ。あ、この人は製鉄所さん。うちの親だ」
ヒートとちゃんと会わせた記憶がないので軽く紹介すると、隣の席に腰を下ろしてラズベリーエールの王冠を手で外した。
「えっ、すご……」
「限定のラズベリーエールが売ってたんでな」
そう言ってどこかからプラスチックの小さいコップを取り出して、三等分してくる。
「クリスマスっぽい色味で良かろ?」
「ですねえ、パールズにも買ってこうかなあ」
「あの子飲酒できるのか?」「あっ」
ちいさなプラコップを受け取るとにこやかに「ヒート君も今日は来てくれてありがとう、良い試合期待してるぞ」と告げられる。
「はい」
そう言いながら製鉄所さんとヒートが小さく乾杯して、赤いビールを飲み干す。
自分も同じく飲み干せば甘さの奥にアルコールの辛みがある。
赤い酒はどこかクリスマスという祝祭の味がした。
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シーウェイブスとヒートと釜石。
作中のお酒は全部ベアレンです。