「まさか俺がダイナボアーズに負ける日が来るなんてなあ」
隣で試合を見ていたブレイブルーパスさんがそうつぶやいた。
この人との付き合いは長い、俺が生まれて程ないころからだからもう半世紀近いだろう。
「……そうですね」
かつての俺にとって目標のひとつでもあった人に、こうしてラグビーの試合で勝つことができたのは節目の日であった。
それが親族である三菱地所さんの前であるのだからなおのこと記念的な一日と言えた。
「自分より年下で後輩だとしてもやっぱ負けるのは悔しいわ」
「本気で試合して勝てることに年下も年上もありませんよ」
「お前も言うようになったな」
ブレイブルーパスさんは昔から笑った時の顔が不思議と印象に残る人だ。
隙間からこぼれる八重歯も小雨交じりの風に揺れるオオカミの耳もすべてが絵になって記憶に焼き付く。
だけれどこの人の視線は記憶よりも少し低い場所にあって、こんなにも自分は背が伸びていたのかと思わされる。
「お前今日この後予定ないよな?」
「片付けが終わったら帰りますが……」
「よし、終わったらそこのHUB来い。ビールおごってやるから」
その言葉には敗北の悔しさと成長への喜びがないまぜになったような響きがあった。
「でもまずは片づけだな」
すっくと立ちあがって出ていくのを追いかけてくる。
乗り越えた壁の向こうに光り輝く優勝の二文字をつかみ取ったら、やっぱりこの人は悔しさと喜びをないまぜにして祝ってくれるだろう。
そんな確信を胸に片付けのためようやく席を立つのだった。
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ダイナボアーズとブレイブルーパス
今日の勝利は東日本社会人リーグやトップリーグ時代を含めても初、と聞いて