「ただ今戻りましたー」
家に帰るとリビングのソファーにはすうすうと寝息を立てる姐さんがいた。
仕事疲れがあったのだろうと察して起こすのは止めておく。ブランケットはー……まだかけるほど寒くないし大丈夫だろう。
遅めのティータイムにしようと棚からティーセットを引っ張り出してお茶を淹れる。
お湯を沸かす間に茶葉の在庫を見て何にするかと思案してみるが、秋摘みのダージリンが残り少ないので飲み切ってしまおう。
お湯を入れて抽出されるまで待っていると後ろから「あら、」という声がする。
「姐さん起きはりましたか」
「紅茶の匂いでね、今何時?」
「6時前ですね」
「昼寝しすぎたわね、スマホのタイマー入れてたのに」
「モンブラン買うてきたんですけど食べません?」
お土産に買ってモンブランの箱を指させば「夕食の後に貰うわ」と姐さんは言う。
おやつには遅い時間なのでその判断も仕方がない。
「加古川さんまだ居るかもと思って三つ買うてきたんですけどね」
「昼過ぎに帰ったわ、今日は一日あいさつ回りだったんでしょ?」
「午前中スポンサーにあいさつ回りして、午後は平尾さんに手ぇ合して後輩連中の様子見てきましたわ」
このプレシーズンマッチの時期に挨拶に行くのは20年来の習慣で、それは現在は形を変えて続けている。
「元気にしてた?」
「ええ、普段あんまり話す機会もないですけど神戸の後輩の様子気にするんは自由ですからね」
色々あって神戸に拠点を置く後輩たちの様子を遠目に見るだけではあったが元気に越したことはない。
「紅茶ストレートで大丈夫です?」「ええ」
ストレートティーが二杯食卓に並び、俺だけがモンブランをかじる。
「そういえば今度釜石のところ行くのよね?」
「ええ、せやけどあれチケット岩手県内限定やから姐さん見に来るの無理ですよ?」
「そもそも当日仕事だから最初からオンライン観戦よ。お茶の棚に未開封のあったでしょう?あれお土産に持っていってあげなさい」
言われみれば未開封のティーパック紅茶があった気がする。
普段家ではパック入りのを好まないが仕事場ではたびたび使うのでそちら用だと思ったのだが、手土産にという事らしい。
「でも何で紅茶?」
「釜石が国産紅茶飲んだこと無いって言うからこの間つい買ったのよ、わざわざお茶だけ送るのも面倒だしあなたが買った事にしてあの子への手土産にしちゃいなさい。
あの子に渡せば釜石の口にも入るでしょ?」
姐さんらしい発想である。
気遣いなのか面倒臭がりなのかは微妙なところではあるが、シーウェイブスも手土産があると喜んでくれるし持って行くことにしよう。
「ほんならそうさして貰いますわ」
秋味をゆっくりと胃の底へ落とすと気分が少しだけ落ち着いてくる。
まだまだやる事はあるけれど、今だけは一休み。
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スティーラーズと神戸ネキ