*本日は短編集です
・大分に行くはなし(レッドスパークス+キューデンヴォルテクス)
先輩の用意してくれた日本代表戦のチケットと往復の特急券を握り締めて待ち合わせた博多駅の改札は、日本ラグビーの色で彩られていた。
「こういうのを見ると華やかでいいですよネ」
「本当にな」
改札を抜けて特急のホームを目指すと同じ方向を目指すらしき人たちもちらほらと見かける。
赤は私の色でもある。コカ・コーラレッドスパークスの色。
その色をまとう人々をもっと見続けて居たかった、という気持ちがじわりと沸いてくる。
「ブルースが来れんのは残念やったなあ」
「練習試合はしかたないデスヨ」
日本代表戦と言えどこんなによく晴れた土曜日の昼下がり、試合向きのいい日だ。
そんな日に試合をサボるなんて絶対にありえない。
青い特急が静かにホームへ滑り込む。
「今日はめいいっぱい楽しんでこな」
・三宮駅前にて(スティーラーズ+神戸)
秋晴れというよりも冬晴れという言葉が良く似合う土曜日の朝だった。
イベントの設営を終えてかいた汗をぐりぐりと拭いながら今日の大分の天気を確認する。
「向こうも晴れか」
試合向きの実にいい日だ。
本当は大分まで応援に行きたい気持ちもあるが今日は地域イベントのほうを手伝う日なので、気持ちばかりを送るしかできない。
姐さんからLINEが届いた。
『昭和電工ドーム着いたわよ、代わりに応援してくるからイベント頑張ってきなさいね』
一緒に届いたのは日本代表のタオルマフラーを巻いてユニフォームを着た姐さんの自撮り。
既にファンが到着して並んでいるのも写真からうかがい知れる。
『うちの奴らちゃんと応援してくださいね』
『当然でしょ?お土産はマッチデープログラムでいい?』
『ついでに何か大分の美味いもんがあると嬉しいです』
ちらりと周囲の様子を伺うとさっそくお客さんが来る。
こういうイベントも大事な仕事だ。神戸にラグビーの花を咲かせるのが俺の使命なのだから。
・充電がない(ブレイブルーパス+シーウェイブス)
「げっ」
隣にいたブレイブルーパスが小さなうめき声をあげたので「なんかあったか?」と尋ねると「スマホの充電がない」と言う。
見てみれば充電がもう一桁しかない。
「スタッフに頼んで充電させてもらうか?」
「チームテント遠くない?」
「テレビスタッフに借りればええ、わしが頼めばコンセント一つぐらいなら借りれるじゃろ」
「じゃあお願いできる?」
スマホと充電コードを受け取って近くにいたテレビスタッフからコンセントを借り、繋ぐとすぐに充電が始まった。
「試合実況に使うのか?」
「いや、代表戦見るのに使う。今日2年ぶりにとくさんが代表ユニ着るからさ」
「確かにそいつは見逃せないな」
自分も同じ状況ならやはり確認するだろうと思えば納得の笑みがこぼれる。
すっかり代表戦などというものは縁遠くなってしまったが、またいつか自分にもそんな縁が降りかかる日が来るんだろうか。
「でも目の前の試合に集中しないと勝てるもんも勝てなくなるぞ」
「……言うねえ」
ブレイブルーパスが笑いながら「でもうちは強いよ」と返すのだ。
・熊谷の秋(アルカス+ワイルドナイツ)
昨日ちょっとばかりの手伝いを買って出てくれたワイルドナイツは、設営が終わっても特に帰る気配もなくぼんやりと試合を眺めていた。
「あんた女子の試合そんなに興味ないんじゃなかった?」
「正午過ぎには帰るよ、代表戦見たいし」
「……暇つぶし?」
「まあ、そうだね」
ワイルドナイツの目にはうら若き少女たちのラグビーはどういう風に見えてるのだろう。
伸びしろがあると見るか、稚拙ととらえるのか。聞いてみたいような恐ろしいような心地だ。
「真剣にやってるんだから真剣に見なさいよ、そうじゃなきゃ追い出すから」
「うん」
何を考えてるのかいまいちよく分からないまなざしだった。
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日本対オーストラリアは本日午後1時半から!