大切に想える人がいるという事は幸福なことだと思う。
それが親であれ仲間であれ恋人であれ、一人ではないと思えるのはこころが穏やかでいられる。
「というわけで姐さんよかったら受け取ってもらえます?」
縦長の瓶に詰められた赤いカーネーションの花にその人は目を見張った。
20センチほどの瓶には赤いカーネーションやバラを詰め、感謝と情熱をその中に詰め込んだ。
「奇麗なハーバリウムね」
「きょうは母の日ですからね」
「あら、スティーラーズは私のこと母親だと思ってたの?」
「人の関係性で言うなら母親のお腹の中に眠る赤ん坊みたいなもんやないですか、俺らの関係は」
親会社という言葉に表されるように企業を経営母体とするチームはいわば親子のように密接だ。
すべてが親会社の手の上にあり、ときにその生死すらもこの人に決められる。
自分がへその緒で命をつなぐ赤子のように弱いことも、自分を生かしてくれているこの人もまた決して強くないことも、永い生の中で充分学んでいる。
「……そうね」
ぽつりとつぶやいてそのハーバリウムを抱きしめると「大切に飾ることにするわ」と言う。
その笑みを見て、きっともう気づいているのだろうと確信する。
このハーバリウムが市販品ではなく俺が自分の手でひそかに作ったものであることを。
そして中に飾られたカーネーションの数が、この世を去っていった俺の兄妹たちと同じ数であることを。
世を去った兄妹たちがこの人をまだ愛してくれているかは分からないけれど、この家で長く過ごした兄妹であるからそうであってほしいという俺の一方的な願いであることも。
「ええ、そうしたってください」
「私もスティーラーズの誕生日には何か用意したほうがいいかしら」
「別にモノはなぁんも要りません。
ただ、俺がラグビーできる日々が一日でも伸びて、姐さんが真摯に俺を応援してくれる。それが俺の一番必要なもんですよ」
「それもそうねえ」
スティーラーズと神戸さんの母の日