忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

君に還る日のために1

1965年、冬。
「ねえ、私はいつになったらあなたの腕の元に帰れるんですかね」
食後酒の甘いにごり酒を飲みながら私がそう呟くと「子どもみたいなことを言うなあ」と呆れ気味に笑った。
日本製鐵という日本の製鉄業を代表する巨大企業が財閥解体の嵐に呑まれて八幡製鉄と富士製鉄に分割されて20年という月日が過ぎた。
今でこそ私にも可愛い弟子や兄弟分も出来たが、やはり私が夢見るのはいつだって釜石たちと過ごしたあの日本製鐵時代であった。
「私はあなたの前では子どもも同然ですよ」
「はいはい」
「これはあくまで私個人の感情であって国家や上の見解じゃないですけど、過度経済力集中排除法もなくなりましたし独占禁止法さえ無ければ、いつだって私はあの頃のように一緒になる気でいるんですよ」
「……案外、もうすぐかもしれんぞ?」
「はい?」
釜石はふっと笑って切り出した。
「この間、永山の親父がお前のとこの稲山さんと一緒に通産大臣のところに合併の話をしてきた」
富士製鉄社長である永山さんが八幡製鉄社長である稲山さんと共にその打診をした、という事は彼らは本気なのだということはすぐに分かった。
本当かと尋ねれば本人から直接聞いたと釜石は言う。
「まだ内密の話だしな、室蘭や広畑にすら言ってないらしい」
「……ようやく帰れるんですね」
(この人の腕の中に還るためならどんな犠牲も払おう)
釜石は、富士製鉄は、私達にとって生き別れた肉親なのだ。
私達の5年にわたる闘争が始まる。



次へ

拍手

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

バーコード

カウンター

忍者アナライズ