※これは「君に還る日のために」2話のころの堺と君津です。
先に「君に還る日のために」「太陽が昇る海」を読まないと少々わかりづらい可能性があります。ご了承ください。
この人にとって俺らは自分の力を拡大するための存在だという事に早くに気付いてしまった事が、俺の一番の不幸だと思う。
産み落とした俺の片割れを水子にしながら俺ではない人を見つめ、その人と生きる事のみが唯一の望みだった。
『聞いてるんか?』
電話越しに片割れの遺した少年がきつい声で言う。
君津という名を与えられ希望の子として生まれながら、本当に愛して欲しい人に見て貰えなかったこども。
「すまんなあ。お前の声は聴いてて心地ええねん」
『そげん事やないっちゃ。今度の八幡と富士の合併に納得いかんって話をしとろうが』
「せやったな」
『やけん、いっぺん八幡の口から話を聞きたいっち思うとるっちゃけどどげん思うと?』
「……俺は君津に同意するわ」
あの人はいつだってそうなのだ。
いつか釜石とともに生きることばかり考えて、そのためにいくらでも犠牲を払っては残された俺たちを困惑させる。
(ちょっとぐらい、あん人に痛い目見せたってもええやんな)
子どもよりも他の男ばかり見ている親なんて最低の極みだ、喧嘩を売るぐらい良いだろう?
『ほうか、2~3日したら本社会議やれるようにしとくけん頼む』
「おう」
根回しの電話が途切れる。
見捨てられた子供からの些細な復讐には、なにがいいだろうか。
----
境と君津の話。まだ小さかった二人の逆襲前夜。