もう夜だというのに遠くから汽笛の音がした。
「何の音だ?」
「SL銀河じゃないですか?きょうラストランらしいですよ」
従業員が何度か見たことのある観光列車の名前を挙げた。
確かにSLは時折見かけていたが今日が最後なのだと言われるとちょっと寂しく思える。
「SLがなくなったと思ったら最近は観光用で持て囃されて、時代の変化の速さにびっくりするな」
「釜石さんはSLしかない時代からここにいる訳ですもんね」
「物の移り変わりは早いな。
ただ、同時に不便だと言って捨てたもんをまた拾い上げたりするから人間ってのは不思議だよな」
一度は主役の座から降ろされたSLが観光用と言う名目で復活し、またここを去っていく。
それは人間のエゴであるがそのエゴによって生まれて生かされているのも事実。
「その拾い上げる行為もまた愛ってやつだと思いますよ」
思い返せば自分もまた人間の愛で瀕死の淵から拾い上げられ、こうして生きてきた身の上だ。
それを愛と呼ぶのなら自分は確かに愛に生かされている。
「また、そのうちここで汽笛が聞ける日が来るのかもなあ」
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釜石おじじとSL銀河ラストランの話。